雪組トップスター 一路真輝さんの想い出

 ヤンさんの項でも書きましたが、宝塚を見る醍醐味は、何といっても華麗なダンスにあると思っています。歌を軽んずるつもりはありませんが、単純な性格なので、見た目に華やかなダンスに惹かれます。

 ただ一人だけ、歌に魅了されたスターさんがいました。誰あろう、一路真輝さんです。

 彼女の歌の魅力は宝塚のファンだけでなく、退団後の活躍から広く一般に知られるところとなっています。退団後に歌を武器としてミュージカル女優として活躍するスターさんというのは、あまりいないのではないでしょうか。

 彼女の舞台はその長所を活かすべく魅力的な歌に満ちていましたが、何といっても圧倒されたのは『エリザベート』。そこで聴かせたトートの歌唱は、「絶唱」なんて言葉ではくくれない鬼気迫るものでした。上手いとか声がいいとかそういう問題ではなく、そこで歌われたのはまさに魂のバイブレーション。体内にある全てのエネルギーが声に変わっていく瞬間に、全身に鳥肌が立ったのを憶えています。

 その後別のスターさんによる『エリザベート』をいくつか観ましたが、一路さんの舞台に触れてしまった後であっては、どれもこれも物足りないものでした(和央ようかさんの宙組を以てしても)。

 ショーでもほとんど踊らずに歌いっぱなしで、実際かなり踊りが上手くなかった(下手、の域に近かったと個人的には思っています)のはご愛嬌でしょう。こっちも心得たもので、「踊りはいいからもっと歌って」と思ったものです。

 宝塚の歴史に残る屈指の歌い手でした。歌の上手い人はこれからもたくさん出るんでしょうが、一路さんのように演じる役の心まで吐き出せる力を持つ人が出る可能性は薄い気がします。

07/6/24記

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