宙組娘役トップスター 花總まりさんの想い出
一体彼女は何年娘役トップとして「君臨」し続けたのでしょう。僕が高校生のときには既に雪組のトップになっていて、その後社会人7年目で退団したのですから、都合12年か13年ということになるのでしょうか。細かい数字はともかくとして、いずれにせよすごいことです。
トップになりたてのころ、例えば『エリザベート』のころは、こんな華奢な身体のどこからこんな迫力のある歌や踊りのエネルギーが湧いてくるのだろう、とつくづく感心しながら見ていました。腕なんか僕の手首よりもずっと細いんじゃないかというぐらいでしたが、『エリザベート』での堂々たる、そして深い憂いに満ちた王妃の演技は、一路真輝さんの歌とともに舞台をより深いものにしていました。彼女のエリザベートなくしては、この舞台はあのような名作とはなり得なかったでしょう。
歌もダンスも上手い。そして何より演技が上手い。他の娘役はあくまで男役の引き立て役というか、いわゆる「奥さん」的な立場ですが、彼女の場合は下手な男役は食ってしまうぐらいの存在感で舞台の空気を作っていました。
そしてまた大変な美貌の持ち主。舞台映えする上に、素顔でもめちゃめちゃ清楚な美人。二物も三物も持った、ゆりちゃん並みに稀有な存在だったと思います。
退団近いころには、見た目の華奢さはそのままに、しかし舞台上での貫禄はますます増し、彼女が舞台に登場すると途端に空気がキリッと締まるといった感じでした。並の男役では完全に食われてしまうほどの存在感で、もはや彼女の相手は和央ようか以外務まらないと思ったものでした。
サヨナラ公演あたりは、娘役でこの貫禄ってのはどうなんだろうとちょっと思わないでもなかったのですが、不世出のスターであったことは間違いありません。一人で十分に立てる娘役というのは、当分出てくることはないでしょう。
(07/7/8記)