財津和夫:CITY SWIMMER
★★★☆
チューリップというバンドの歴史を語るとき、どういうわけか80年代半ば以降のことに触れられることはほとんどない。素敵な曲もたくさんあるし、アルバムもたくさん出しているし、かなり積極的に活動をしていた。にもかかわらず、黒歴史ででもあるかのように、その当時のことは封印されている。ライブでも歌われることはない。辛うじて、宮城さんの「Route134」(1984年)が歌われるぐらいだ。
(もっとも、オリジナルメンバーが財津さん一人になってしまった第3期については、今となっては触れようもないという側面があるのであろうことは理解できる)
財津さんの80年代後半のソロ活動については、もっと省みられることがない。バンド活動と併行してかなり積極的に活動していたのだが、アルバムも長らく廃盤になったままであり、楽曲を耳にする機会は皆無に等しい。
当盤はまさにその頃、1987年のアルバムである。財津和夫というシンガーは、「チューリップ=青春のバンド」というのと同じ文脈で語られることが多いが、特にソロ活動時においては、垢抜けたラブソングの作り手である。特にこのアルバムは当時のおしゃれ感覚をふんだんに取り入れることを意識して作られたものである。
時はまさにバブル全盛期、打ち込みを多用したエッジの立った音をバックに、財津さんも珍しくシャープな歌を聴かせてくれる。歌詞もストレートだ。今となっては打ち込みの音が古くさく、チューリップ初期の歌よりもむしろ強く時代遅れ感を感じさせるが、時代を投影していることは確かだし、バブリーな財津さんの歌唱も貴重であり、面白い。
また珍しく他のアーティストから曲の提供を受けている。ユーミン、杉真里などに混じって、ケラ(現ケラリーノ・サンドロビッチ)との共作なんかもあり、財津さんの懐の深さを感じさせる。
財津さんらしからぬ、あるいはこんなこともできるんだ、という意味で一聴の価値のあるアルバムだと思う。ただ残念なのは長らく廃盤であること。コロムビア在籍時代のソロアルバム3枚、まとめて再プレスしてくれないものだろうか(もう2枚は持っていないのですよ)。
08/4/11記