月組トップスター 天海祐希さんの想い出

 真のスターっていうのは本当に光り輝いて見えるものであることを教えてくれた人でした。もちろんトップスターはピンスポットを浴びるから他の人より明るいのですが、そういうのとは別に、舞台に出てきただけで劇場の空気を変えてしまう、そんな人でした。

 スタイルの良さは空前絶後でした。忘れられないのが、「エールの残照」での一幕。セーターにスラックスという出で立ちで、椅子に足を組んで座って芝居をするというシーンがあったのですが、そのあまりのかっこよさに一撃でメロメロ。普通なら男役といえど女性なので、パッドの入った上着を着ていないと様にならないものですが、飾らない恰好でただ足を組んでいる姿がハマりすぎていて気持ち悪いぐらい絵になっていて、胸がキュンとなって本当に眼がハートマーク。一緒に観に行った母親とオペラグラスの争奪戦を繰り広げました。帰りの地下鉄で「ゆりちゃんカッコ良かったねえ〜」と二人してそればっかり言っていたのを昨日のことのように思い出します。

 今のトップはだいぶ大柄になってきましたが、それでもゆりちゃんぐらい男役として完璧なプロポーションを持った人はいないと思います。

 歌も踊りも際立って上手いということはありませんでしたが、もちろん水準以上でした。特にダンスは、長い手足や指の活かし方を十分に心得ていて、大変見栄えのするものでした。

 そんな御託はともかく、姿を見ているだけで幸せな気分にしてくれる、本当のスターでした。

 サヨナラ公演となった「ミー・アンド・マイガール」は、僕が触れたあらゆる舞台の中でも一二を争う素晴らしいものでした。こんなにも愉しい舞台があるのかともう胸がワクワクしっぱなしで、みんなが客席に下りてくるクライマックスでは一緒に踊り出したい衝動に駆られていました。あんなにも観客の心をつかんで離さなくしてしまう舞台人は、彼女以外には知りません。

 退団して女優業に進出してからしばらくはやや不遇の時代でしたが、ある程度はむべなるかなと思います。彼女の強烈な魅力はブラウン管越しに伝わるものではないので、テレビ向きになるのに少し時間を要したのは致し方ないことでしょう。

 もうゆりちゃんのようなスターは出てこないでしょう。もちろん宝塚のファンとしてはすごいスターがどんどん出てきて欲しいのですが、贔屓目とかではなく、彼女は本当に突き抜けた存在でした。彼女を舞台で観ることができて、本当にラッキーだったと思います。

(07/5/13記)

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