30 minutes night flight   ★★☆

 前作が前作であったので、僕だけでなくファン全体が期待よりも不安のほうを多く抱いて発売を待っていたに違いない。7曲、収録時間はちょうど30分というコンセプト・ミニアルバム。特別版にはそのうちの一曲のイメージ映像(アニメ)のDVDがつく。こういういわゆる「凝った」部分が吉と出るか凶と出るか、やはり不安であった。

 真綾さんを聴く悦びとは、その美しい声を聴く悦びである。不適切な喩えかもしれないが、僕は彼女を美しい声を奏でる一つの楽器だと認識している。その楽器が、当盤では全くちゃんと鳴っていない。

 プロデューサーやバックのミュージシャンには、結構な大物が揃っている。そうすることで、いわゆる「音楽性」で勝負をしようということなのだと思うが、彼らの「音楽性」が完全に真綾さんの良さを塗りつぶしてしまっている。彼らはあくまで彼らの土俵で仕事をしており、真綾さんを活かすための仕事をしていない。確かに良くできたポップスではあるが、別に真綾さんが歌わなくても、という内容である。

 菅野さんの仕事は確かにかなりあざとかった。しかし、実に巧みに彼女を活かしていた。坂本真綾という楽器を心行くまで鳴らしていた。別に菅野さんと同じやり方でなくてかまわないが、とにかく真綾さんの美しい声を開放して欲しいのである。

 声が内に籠もっている感じなので、歌い方の癖ばかりが耳につく。『Lucy』では好ましかったブレスも不快だ。友人はミュージカルの影響を指摘したが、これでは悪影響である。真綾さんの声は本来ヘッドフォンで聴きたいものなのだが、当盤はとても聴けたものではない。

 僕と信頼できる友人は共に大不評なのだが、世評はなぜか高い。2ちゃんねるを読むと、どうもプロデューサー氏の狙いは当たっているようなのだが、音楽自体が耳に心地良ければ、真綾さんらしい美しい声が聴けなくても良いのだろうか。2ちゃんねるでは、菅野さん時代の中で唯一味の薄い『イジリス』がなぜか評価が高い。真綾さんのファンはみな自分と同じく声に惚れているのかと思っていたのだが、どうもそうではないらしい。

 もう一度「坂本真綾」の個性を全開にした歌を聴かせて欲しい。それが果たせたとき、本当に「Take Off」できると思う。

(07/4/7記)

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