石原莞爾:最終戦争論(中公文庫)
★★★

 石原莞爾は、周知の通り板垣征四郎と満州事変を画策し実行した張本人であり、日蓮宗への信仰に立脚した独自の世界観に基づき、アメリカとの「世界最終戦争」を唱えた人物である。これは、彼のその主張を、日蓮宗への帰依も含めて、彼が東条英機と対立して予備役へと追いやられた後に著したものである。
(余談だが、指揮者の小澤征爾の名は、板垣と石原の名前から一文字ずつ取られたものである。彼は満州生まれである)

 この本に書かれている主張を読むかぎり、石原莞爾という人は、確かに東条英機や小磯国昭といったいわゆる軍人というよりは能吏でしかなかった連中とは一線を画す人物だとは思う。軍事兵器が極限まで発達した世界においては、戦争は相手の国土そのものを破壊する殲滅戦にならざるをえず、結果的に「最後の」戦争となる、という論は、核戦争、長距離弾道ミサイルによる戦争を予言している。

 しかし、根本においては夢想家の域を出ていない。日蓮信仰から最終戦争の時期を導き出すくだりは甚だしく空想的であるし、日米の対立軸の設定の仕方や「昭和維新」というものの捉え方は、言っていることは分かるが著しく合理性に欠ける。

 ただ、他の軍人がセクト主義に縛られて汲々としている中で、世界的な視野での物の見方ができていたという点においては、評価できる。特に日本とアメリカが雌雄を決するという構図は、現代の政治家が持っていなければならない視座である。そのためにどうするかの施策が、希望的観測だけではなく、具体的・合理的に示されておれば、次代への指針としての大きな価値を持ち得たであろう。

 面白い本というわけではないが、短い文章ではあるし、戦争初期の段階でこうした考え方を持っていた人間がいたことを知るのは無駄ではないと思う。

(07/4/15記)

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