モーツァルト:レクィエム(ジュースマイヤー補筆版) POCG-7009
ベーム指揮、ウィーンフィル他
★★★★★
クラシックファンとしてはあるまじきことなのだと思うが、僕はモーツァルトがどうも好きになれない。大変美しい音楽だとは思うのだが、その俗世から抜けきった天国的な美しさが苦手なのだ。
僕はどこまでも人間的な熱い情熱が前面に出た音楽が好きだ。しかし、モーツァルトの音楽は人間臭さが混じった時点で即壊れてしまう(フルトヴェングラーのモーツァルトなどその最たるものだろう)。とはいえ、例えばワルターの演奏などを聴いても、しっくりこないものを感じる。汚れのない美しさがどうも落ち着きが悪く、心に響いてこない。
なので、罰当たりにもモーツァルトはほとんど聴かないが、唯一よく聴くのがこの盤である。モーツァルトの作品中もっとも暗い曲だと思うが、ここでベームが聴かせる音楽は、暗いとか美しいとかいう形容のものではなく、凛とした厳しさを前面に押し出したものだ。かといって、ベートーヴェンの音楽のような重苦しさは感じさせない。安易な悲劇性に流されてしまうことなく、しかし真摯に死後の安寧を神に乞う歌唱には、否応なしに惹かれる。
入祭誦からキリエ、怒りの日にかけての堂々たる偉容と馥郁たる響きには、何度聴いてもドキドキさせられる。やはり音楽にはこのドキドキが重要で、聴いていて胸が高鳴るようでないと聴く意味がない。
このたっぷりとした音量とテンポは、今となっては時代遅れで、およそモーツァルトらしくないらしい。だが、鑑賞する側にしてみれば、らしいからしくないかなどはどうでもよく、要は良いか悪いかである。僕にはベームはこの音楽にあるべきやり方で指揮をしているように思える。
(07/5/13記)