vol.02 2004/12/17(金) Common Cafeにて                   

あまけん(綱本 武雄、若狭 健作)




「尼崎?しかも南部だけ?
超ローカルフリーペーパーによる地域の活性 化」

今回はフリーペーパーをつかって尼崎の南部地区のまち づくりをすすめている「あまけん(尼崎南部再生研究室)」の お二方、綱本さん、若狭さんをゲストに招きお話をうかがい ました。

「南部再生」は、尼崎の南部地域をオモシロがって発信す るフリーペーパー。“空気が悪い、ヤンキーのまち、大阪府 尼崎市…”尼崎のイメージなんてこんなもの。でもそれだけ じゃない。取材という視線でまちを歩けば、オモシロイこと、 ちょっといい話、結構リッパなことが湧き出てきます。

学生、新聞記者、会社員、商店主、行政マンらが渾然一体 となったチームがどのような目線でまちに入り込み、発信 できる内容に仕立てているかお話をうかがいました。

まちを取材しフリーペーパーにまとめることでできるまちづ くりのかたち。それはシンボルロードや箱ものを作ることあ るいはイベントを行うこととはちがう可能性を指し示していま した。

関連ホームページ:尼崎南部再生研究室


1:「あまけん」とは「尼崎」とは?

あまけん(綱本 武雄、若狭 健作)


フリーペーパー「南部再生」


尼崎市市章

みなさん、こんばんは。「尼崎南部再生研究室」、略して「あまけ ん」です。どうぞ、よろしくお願いいたします。

まず今スクリーンに映しているのが、フリーペーパー「南部再生」
です。ところで尼崎のイメージってどんなイメージですか?

「ガラが悪い。」(お客さん)
「ダウンタウンのイメージ。」(お客さん)

そういうイメージありますよね。「あまけん」はそんな尼崎の南部 地域、いわゆるガラが悪いなぁといわれているところの開拓する 集まりです。

この正面に見えている紋章、これは尼崎の市章です。市章には 二つのイメージが書かれています。まずカタカナの「ア」と「マ」が 隠れています。尼崎って「アマ」っていいますからね。そして尼崎 は工業都市なので工業の「工」という文字が書かれています。

尼崎市役所はこの工業都市というイメージから脱却したいといろ いろ施策をうってきたようです。近松門左衛門の墓があるのでそ れにちなんで「近松のまち」やと。10年くらい前からいろんなことを しているのですが市民に浸透しているかというとちっとも浸透して いない。

尼崎は30年くらい前は工場がたくさん建って、喘息が出たりして 公害で訴訟などがありました。1999年に企業と患者会が和解し まして、その和解金の一部で尼崎の南部を活性化しなさいという ことになりました。ところが患者さんは高齢者ばっかりで、活性化 しろといっても難しい。そこで若い人を集めて組織を作って活動し ているわけです。メンバーの中には私どものほかに市職員やマス コミ、地元信用金庫の職員などがいます。これを機にまちの本当 のことをちゃんとみんなに伝えたい。「あまけん」はそう思って活 動しています。
2:尼崎運河クルージング


産業博物館


博物館で地ビールを楽しむ



尼崎クルージング出航!

住友工場

跳ね橋

閘門(こうもん)

尼崎の他にも世界各地に工業都市があるわけですが、なにか活 性化のいいヒントはないかなとドイツのルール工業地帯を見に行 ってきました。

これはその産業博物館です。日本では産業博物館というとダサく てかび臭いイメージですが、あるものをうまく使いながら、例えば ガスタンクの中をくり貫いて展示場にするとかうまくやっていま す。働くおっちゃんたちの写真も飾ってあって男心がくすぐられま した。

そして僕が感動したのはビール。工業都市はやっぱりビールがう まい。工場のおっちゃんたちが飲む地ビールを飲ませてくれる。 そして水門を作り変えた公園を眺めながらビールを飲む場所があ るんですね。すごく遊び心があっていいなぁと思いました。運河の 景観を眺めながらクルージング。煙がボーボー出ているのを見な がら、大きな機械がごみをがっさーっと掴んでるのを眺めながら 飲む。これだったら尼崎でもできるんじゃないかなと。




そこでこんなことをしてみました。

尼崎運河クルージング。

このクルージングはお花見しながらしましょうということで行ない ました。ぼくらが場所の説明をしていきました。青い作業着を着て いるのがぼくらです。クルージングと言っても船は漁船ですが。

船を進めていくと、住友の工場などが見えてきます。ここは北海 油田で地面を掘削しているような継ぎ目のないパイプをつくってい たりします。

これは跳ね橋です。跳ね橋は船が来れば開く、とおもいきや1日6 回、決まった時間にしか開けてくれないんですね。定時になると 近所にいるおじさんが自転車で走ってきて、大きな船がとまって いたら開けてくれるんです。船がいなければそのままです。

これは尼崎の閘門(こうもん)です。パナマ運河式です。干満の差 が大きいとき外との水位差は1mくらいあるそうです。そのときは 水がわっとふき出てきてすごいそうです。子どもがウォーターワー ルドみたいやといっていました。

平日は船が土砂などを運んでいたりしているのを見るのもけっこ う面白い。

こうやって進んでいくといろんなものが見えてきます。ぼくらはひ っきりなしにガイドをして、なにげなくみているものにも感心を持っ てもらおうと努めました。
3:「アマイモ」

昭和初期アマイモ収穫の様子














絵本「僕はアマイモ」

次にアマイモというさつまいもの話をします。
尼崎の工場が建っているところはほとんどがサツマイモの畑でし た。これは昭和初期の頃アマイモを収穫している写真です。塩気 のある砂地でつくるサツマイモは風味がいい、いまでいうと鳴門 金時のような、そういったサツマイモが流行りました。ところが昭 和初期に大きな台風が2回あって、潮をかぶってイモ畑は全滅し てしまいました。

公害患者の方が公害のないときの尼崎を思い出す品物として、 「アマイモ」をあげていました。死ぬ前にもう一度アマイモが食べ たいと。そこで探し回りました。すると筑波の農業試験場にそれと 思しきものがあり、種芋をわけていただきました。これを育てるわ けですが、ただ育てるだけでは面白くないので、サツマイモに関 する料理を研究してみんなで食べています。「パリコレ」にちなん で「イモコレ」。サツマイモのお菓子やジュースもあっていろいろな 食べ方の比較などをしています。

実際にアマイモを市内各地の小学校13校と中学校3校くらいで 栽培してもらっています。食べられる教材として大いに売り出して いるところです。

アマイモについての冊子も作りました。そしたらこれが年配の方 に好評でして、県外からぜひ読みたいという声をかけていただき ました。

気をよくして、絵本もつくりました。地域のことを勉強する教材は モノクロで色あせたイメージが多いのですが、原色で昔の尼崎は こうでしたと書いてあげると親近感をもってくれるのではないかと 思いました。
4:「南部再生」

フリーペーパー「南部再生」













































南部百景

フリーペーパー「南部再生」は季刊発行で年に4回、5000部発行 しています。印刷費は1回あたり13万円です。編集に関しては一 切お金を出していない状態でやっています。

関西で出されている雑誌、ウォーカーとか、ミーツとかは尼崎のこ とかかへんでしょ。西宮や芦屋のことは書くのに。そこで尼崎のこ とばかり書いたらどうかなと思ってやっています。

あまけんでは、集まってくる人がそれぞれの特色を活かしなが ら、それぞれの思いを記事にぶつけてもらう。例えばアートに詳し くそれに携わっている人はアートの記事、食べ物に携わっている のであれば、食べ物の記事、そういうカタチでやっています。

最新号は食の特集です。これはもともと連載で「風土フード」とい うのがありまして、それを書いている方が「こういうのできるんちゃ う?」といって企画されました。中には私のランチということでおっ ちゃんやおばちゃんにオススメのランチ教えてもらったり、尼崎で 自分が食べたランチを逐一報告するホームページに協力してもら ったり。アマは下町なので安くてうまいものが食べられると皆さん 思ってますでしょ。そこで、かつて阪神間の台所といわれた、三 和市場に千円札を握り締めて弁当箱を持って行っておかずを入 れてもらう、「1000円でガッチリ食べまショー」ということをしまし た。マツタケご飯や刺身入りのめちゃめちゃ豪勢な弁当ができま した。

給食が名物の保育園もとりあげました。全部地元で取れた野菜 を使っています。そして野菜を育てたおじさんが保育園児の前ま で持ってきて、今日取れた野菜だといってその場でさばく。そうす るとこどもは食わず嫌いがなくなってしまうそうです。

あと尼崎には24時間創業の工場があるものですから、夜勤あが りのおっちゃんが朝からビールを飲んでいる場所というような、そ ういうとこも取材に行きました。

突撃従業員食堂というのもやりました。工業団地の食堂、市役所 の食堂そして警察署の食堂も行きました。たぶん警察の食堂で つくっているカツ丼が取調室へ入ってるんじゃないかなと思って (笑)。

次に紹介する連載は南部百景です。百景というだけに100回続 けなければいけないのですが…。尼崎って写真でみるとなにげな く通りすぎてしまうものが多いのですが、絵にすればちょっと雰囲 気がかわるんじゃないかと思いまして、いろいろ絵を書いて歩い ています。この絵のおじさん、びっくりするでしょ。尼崎っていうの は本当にこういうおじさんがいるんです。尼崎という典型的なイメ ージをここに凝縮したんじゃないかなと思います。ましてや、旭日 旗をつけて、裸にベストだけつけてきている。そしてバイクのエン ジン音はうるさくなくて、けっこう静かなんですね。そこがすばらし いなと(笑)。

あまけんは学生さんが多いので学生が見たノスタルジーをかい た「ノスアマ」という記事があります。これは学生に何か気になっ たもの、好きなものを写真に撮ってきてもらい、バウ的に家のトビ ラが変だとか、電柱が・・・とかそういうものを集めてもらってきて います。

お年寄りに昔の写真を見せてもらって、自分が映っているスナッ プ写真を見せてもらいながら思い出を語るというコーナーもありま す。

尼崎には貴布禰神社というのがありまして、ここの宮司さんに祭 りに関する思いを連載書いてもらっています。

尼崎って意外と芸術家がおるんですよ。例えば、前衛芸術家の 白髪一雄さんといって、天井にぶらさがって足で絵を描くアクショ ンペイントをする方とか、紙風船とか。そういうひとを特集していま す。

尼崎はものづくりのまちです。だからなにかすごい秀でたワザが あるやろということでTHEワザという連載もしています。前回はロ ボットアームの記事でした。かばんづくりの職人さんのところへい ったり、柔道場で必殺技を教えてもらったりしています。

風土フードはB級グルメというか、生活密着の食べ物を探す企画 で新聞記者の方が参加しています。

論というコーナーもあって、尼崎市内で活躍されている方、権威 のあるような方に書いてもらっています。この間はあましん「尼崎 信用金庫」の理事長さんに書いてもらいました。

「つくらないまちづくり」はスクラップアンドビルドではなくて、今あ るものを使いながらまちづくりしている内容を書くコーナーです。あ まけんのメンバーで地域政策をしている方が書いています。

他にも工場とか産業遺産のことを盛り上げたいなと意見が一致し たら、僕らの言いたいことを言って書いてくれる人を選びます。そ ういうときは工場の社長さんを連れてきて、書いてもらったりしま す。

南部再生をつくっていてすごくいいなと思うのは、この冊子を見た 若い人が私もその記事を書きたいといってきてくれたりするんで すよ。
5:メイドイン尼崎

冊子「メイドイン尼崎カタログ」










































枡千

湯たんぽ



メイドインアマガサキショップ


「アマの秘伝の味セット」

メイドイン尼崎コンペというコンペを昨年から実施しています。阪神 尼崎の商店街は2003年タイガースのマジックをいち早く点灯させ た商店街なんですが、マスコミに紹介されて何千人という人が来 たんですね。ところが商店街のおっちゃんにもうかったんかと聞い たら、もうかってないと。もうかったお店というのはタイガースグッ ズをつくって売り出したカメラ屋とか一部だけだったんですね、そ れはまずいなということで、商店街で売るもの、尼崎でしか買え ないものとかを発掘しようということで、商店街と一緒になってや り始めた事業がメイドイン尼崎なんです。

商工会とかがやると、技術がどうやとか、ものすごい固くて難しい ことばかりで、おもしろくないんですね。だからもっとわかりやすい ものをやろうということで、甲子園で売られている焼きそばのソー スは尼崎産だとか、世紀の発明品セグウェイに使われている部 品も尼崎で作られている、ソニーのアイボの部品も尼崎やとか。

いちばんわかりやすいのは「マリービスケット」です。マリーとかチ ョコチップとかクッキーとかビスケットとか全国で売っているのは 尼崎の工場でしかつくっていないんです。マリーのまちからやっ てきましたというと粋やなぁと。

へぇーという話なんでしょうけど、近くに工場があってもそこで何 がつくられているかはみんな知らない。だから何をつくっているの かを知らしめる必要があるやろと思っています。

メイドイン尼崎は自薦他薦問わず集めました。尼崎の模様を押し た瓦煎餅、もち米しか使わない松任谷由美も愛用している水あめ とか、百万という豚マンとか。森永のビスケットやしょうゆ、どら焼 き。パルナスのピロシキはパルナスは解散してしまったんですけ ど尼崎だけで食べられるんです。

豆腐ドーナッツもあります。下町の豆腐屋さんでおばちゃんがひ とりで揚げているドーナツです。1個50円なので、子どもがよく買 っています。これを南部再生の冊子やメイドイン尼崎で紹介したら おばちゃんひとりでおいつかないくらい揚げなければならなくなっ たようです。今では新メニューも開発しているようです。

グランプリになったのは枡千のてんぷらです。揚げかまぼこがど うしてグランプリになったかというと、尼崎は昔漁港だったんで す。だからかまぼこや加工産業が流行った。200年くらい変わら ず愛されているそうです。

もうひとつのグランプリは最新型のユタンポです。まず素材が斬 新で、絶対腐食しないといわれているチタン。IH対応でコンロにか けておけば火傷せずにお湯が入る。キャップにも秘密がありまし て、ユタンポのお湯が冷めてもへこまない設計になっています。

もともとの尼崎のイメージ、工業の町というイメージにぴったりだな と審査員の絶賛でグランプリに決まりました。

これをカタログにしたのがメイドイン尼崎カタログです。まちづくり の助成金を使いながら一万部発行しました。

そしてサンワ商店街の空き店舗をメイドイン尼崎ショップとして試 験的にオープンしようということになりました。
ほとんど人通りのない商店街だったのですが、2日間で5000人 の人が来てくれました。売り上げもすごかったのですが、メイドイ ン尼崎にかかわるおっちゃんおばちゃんが勢ぞろいしたのもすご かった。ピロシキを売ったり、尼崎の麺、ソース、天ぷら、焼いて いるのも尼崎出身のおっちゃんという純尼崎製の焼きそばを売っ たりしました。

その後一過性のものではなくて、継続した事業としてやりたいと いうことになり、「メイドイン尼崎のお店(アマガサキタウン)」とし て楽天に出店しました。例えば「アマの秘伝の味セット」といっ て、ワンダフルソース、ぽんず一番搾り、尼の生揚醤油が入って いたり、それぞれにまつわる "うんちく"が入っていたり、地元の ホテルの料理長のレシピが入っているものを2500円で売ってい ます。商店街には毎日50セットくらいの注文があるそうです。

あまけんは、冊子をつくるのが目的じゃなくて、冊子を作って、冊 子を通して波及する事業を、例えばメイドイン尼崎であるとか、そ ういうのをつくって、地元の人をその気にさせるというのがねらい です。