『人工酵素の夢を追う―失敗がつぎの開発を生む―』

  白井汪芳 著 　　　　　　　　　　　　　　

  四六判　142頁　定価（本体1400円＋税）
  ISBN978-4-946553-431　C0043

《内容》

　大学の研究室は教員と学生が自由な発想で研究を展開する基礎研究の場である。著者は、その中で「金属フタロシアニンポリカルボン酸」に偶然めぐりあった。鉄（�V）-フタロシアニンポリカルボン酸が生体酸化酵素と同じ電子構造で似た働きをすることを見出し、「人工酵素」と呼んだ。さらに、においを消す機能が、これも偶然見つかって以来、多くの、研究室の学生、また事業化しようとした企業の人々がかかわって40年以上にもわたって、ユニークな商品を次々と生んできた。失敗し、あきらめて、また新しい企業が開発に取り組み、三度目の正直で成功したこともあり、意外な展開もあった。それがまた新しい開発を生む。大学の研究室にノーハウが蓄積されていくからであり、産学連携の財産でもある。

《主要項目》

第1章　消臭繊維ができた！
し尿の「臭い」を消すプロジェクト／生体酵素・金属酵素／酸化酵素の働き／強烈な「臭い」が消えた！／「臭い」を消す繊維　産学共同開発へ／人工酵素の基礎研究／ヘム鉄（�V）の電子状態／消臭繊維ができた！／消臭繊維の商品化

第2章　人工酵素―なぜ臭いを消すのか？
「臭い」を消す機能の評価／「匂い」を感ずるメカニズム／臭い分子の超微量分析／ふとんが尿や汗の臭いをなぜ消すか？／豚舎の「臭い」を消すプロジェクト／畜舎の臭いはなぜ消える／トイレの臭いはなぜ消える

第3章　消臭新素材の実用開発
タ バコの臭いが消えた！／新幹線「のぞみ」に搭載―タバコの臭いを消す空気清浄器用フィルター／消臭紙・パルプ／消臭壁紙／マンションの死体／冷蔵庫／いろ いろなキムチがつくれる冷蔵庫／立体織物から冷蔵庫用消臭剤／生ゴミの臭いを消す―高速消臭装置／おむつの開発／人工酵素の鮮度保持効果

第4章　かゆみを鎮静する繊維
「かゆみ」を抑え、「かぶれ」を改善する効果の発見？／動物実験へ／本格的臨床試験へ／治験と結果／商品名「アレルキャッチャー」の販売

第5章　メディカル分野への挑戦
人工白血球をねらって／消臭繊維の靴下で水虫が治る？／トリインフルエンザに効果があるマスク／フリーラジカルとガン／生体関連分子の金属錯体によるラジカル重合／人工酵素による酵素存在下のラジカル重合／副作用のないガン化学療法薬―シスプラチン誘導体

第6章　環境問題の難問に挑戦
自動車の排ガス浄化へ挑む／人工酵素でダイオキシンをやっつけろ！／燃焼法によるPCBの完全無害化処理

第7章　チトクロムをまねる？―人工酵素の電子伝達
ポリアクリロニトリルからトランジスタができた！／金属フタロシアニンポリマーから電気が流れる高分子／チトクロムの電子伝達に似た電気を通す高分子／アモルファス高分子に結合させた金属フタロシアニン超分子の電子伝導／水を燃料にする二次燃料電池／ヨウ素-亜鉛二次電池／金属フタロシアニン電極の新しい作製方法／三色に変化するエレクトロクロミックディスプレイ／人工酵素から分子素子へ

米田出版 発行