雲雀ヶ丘の別れ

雲雀ヶ丘の駅舎で、二人の老婆が別れを惜しんでいる
暑い夏の正午、別れの涙と汗で少女のように頬が赤い
白いハンケチで涙を拭い、品の良い扇子で風を送る
半世紀以上前の少女の時からの友情が見合す眼に宿り、
もう逢えないかもしれないと告げている

昔から東京の夏は暑く、軽井沢に避暑に行く人もいた
でも、毎日30度を越えるなんてことはなかった
最近、雲雀の声を聞かないのも暑さのせいかしら
電車がフォームに入り、一人が冷たい冷房車に乗った
窓を開けて、手と手を握り合うこともできなかった

この冷たい冷房車ををつくった為に、フォームが熱い
と誰も教えてくれず、残された老婆はめまいがした
やり場のない悲しみと熱さの耐えがたさの中で
人生に希望を残すことができず、砂漠の熱さが
東京を絶望の都に変えてしまったと感じていた

重油を燃やして発電し、その膨大な電力でモーターを回し
ポンプを動かして、クーラーで冷房している
冷房すればするほど、その系の平均温度は高くなる
一律30度の温度の中で、23度の部分空間をつくっている
そのため、その外部では30度以上になってしまう

エントロピー増大の法則に逆らって、エントロピーを減少させている
そのためには重油を燃やすというエネルギーが必要
重油を燃やした分、系の平均温度は高くなる
23度の部分空間を維持するために重油を燃やし続ける
これは悪の循環であり、破断界に至ると分かっている筈なのに

         平成14年8月2日              陽平