■国連憲章との整合性         2005/10/25

国連憲章第51条〔自衛権〕おいて、
「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及
び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。・・・」
と規定されており、

自民党の新憲法草案「第2次案」第九条の二における
「侵略から我が国を防衛し、国家の平和および独立並びに国民の安全を確保するため、自衛軍を保持する。」は、個別的又は集団的自衛の固有の権利として自衛軍を保持するものであり、国連憲章に基づくものと考えられます。

しかしながら、日本は非常任理事国ではありますが、15の理事国からなる安全保障理事会の構成国であり、国連憲章第
51条の「・・・安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、・・・」の規定を実行する義務があると考えられます。それは具体的には、国連軍あるいは国連平和維持軍への参加を要請されていることになります。
自民党の新憲法草案「第2次案」第九条2項において、
「前項の理念を踏まえ、国際紛争を解決する手段としては、戦争その他の武力の行使又は武力による威嚇を永久に行わ
ないこととする。」
となっており、国連軍あるいは国連平和維持軍への参加の要請には応えられない規定になっています。

侵略から我が国を防衛するので自衛軍という名称になっていますが、他の国連加盟国を武力攻撃から防衛することは安
全保障理事国の義務としての戦争あるいは義務としての防衛になり、防衛軍という名称がふさわしいと思います。

現行の憲法9条においては、権利としての戦争を放棄しているだけで、義務としての戦争、義務としての防衛については何
の規定もありません。従って、規定のない事項については、国連加盟国として、国連憲章の規定を遵守して、日本国防衛軍(現行名称は自衛隊)が安全保障理事国としての義務を遂行することができます。

結局、自民党の新憲法草案の9条改正案は、戦争と防衛、権利と義務の定義ができていないために、国連憲章51条の規
定からはずれたものになっていて、権利だけを規定し、義務を遂行できないような規定なっています。

硫黄島に星条旗を立てた6人のヒーローのうちの一人、ジョン・ブラッドリーは帰国して、幼馴染と結婚して、50年ほどして
亡くなりましたが、硫黄島の戦場については家族にも沈黙を守り、一言だけ、「本当のヒーローは帰って来なかった男たちだよ。」と言ったと伝えられています。その沈黙はまさにフォークナーの「過去は死なず、それは過ぎ去ってもいない。」の言葉のように、市丸少将の「・・・世界人類に安寧幸福の日なからん。」の帰って来なかった人の雄弁と対照しています。

日本国憲法9条と国連憲章51条ははめ合わせるとより明確になります。国連憲章51条に直接言及されていない部分は権利としての戦争です。「・・・国際連合加盟国に対して、権利としての戦争
による武力攻撃が発生した場合には、・・・」という意味であり、すべての国に対して、権利としての戦争を放棄することを要求しています。日本国憲法9条と国連憲章51条は世界各地で行われた戦争によって命を失った人々の沈黙と人類の戦争についての深い洞察によって、石版に刻まれたような文章であり、その石版をはめ合わせることによって、人類の安寧幸福のための指針とすることができます。