98.回帰

裸のあなたのそばに横たわり
目を閉じて
時間の過ぎ行くままに
あなたと同化することを願う

死が永遠の眠りならば
心中のような安らかな眠りを
あなたの中から生まれ
あなたに回帰する

山手線の電車の中
八人の七十歳位の中老の女がいる
観劇の帰りで興奮して
元気に饒舌り
抜け目なく空いた席を探している

私の義姉はいつまでも生きると思っている
もう八十を越えているのに
だったら私なんかまだ先が長いよ

席が空いたよ
一番年取った若い人から座りましょう
年の順よと大騒ぎして
三人掛けの所に四人も座って
体がくっついても何の苦にもならない

一人が僕に気がついて
疲れているようね
と始めて席を譲られた会釈をした

大丈夫
あなた方が元気でいてくれれば
何も変わらずに
今日がいつまでも続くような気がする

「私だけ残ったわ
仕方がないからこの柱に巻きついていよう」
「やっぱり年少さんが残ったね」

花火の好きな三才の女の子
夕方、待ち焦がれたように
マッチ、ローソク、バケツに水を準備して
花火を始めた

線香花火他五本もやると
もう終わり、また明日
と言って、あっさり終えた

何という慎ましさ
永遠に明日が来ることを知っている