75.紘子と恐龍
世界中の美が、紘子の体に集中していた
青春のすべてを賭けて愛した
見た瞬間、息が止まり、時間が止った
煌めく瞳と上気した頬が、知性と情熱を示し
赤い唇が恋を求め、白い腕が、愛の旋律を奏でていた
昼も夜も、紘子を思い、美と祈りの中に、捉えられていた
雪深い、北陸の山の城下町で、生まれ、育った完璧な美
二千年の歴史の中で、韓国から、京都、北陸へ繋がる美の系譜が
高められ、洗練され、紘子の中に凝縮されていた
文字が渡来し、仏教が伝えられ、精神までも美しく着飾っていた
美の中の美を恋する僕は、夢の中にいた
紘子の故郷の山から、一億年前のイグアナドンの骨が出る
体長七メートルのイグアナドンの体を作っていた蛋白質や核酸は分解されて
炭素、水素、窒素、酸素原子となり、紘子の体の一部になっている
一億年以上続いた恐龍の時代が、地上の楽園であり
イグアナドンも異性の中に、完璧な美を見つけたことだろう
美と祈りは地球の生物にとって共通の言葉だから