66.聞いてみたい
蟷螂の雌が、交尾の絶頂が終わらないうちに
振り向いて、背中に乗った雄の頭に咬みつき、食べてしまう
憎しみの爆発か、愛の極致か、単なる食欲なのか
彼女は答えることができるだろうか
交尾する前に雌が雄を選んだ場合は愛
雄が雌に強引に仕掛けたのなら憎しみ
食欲だとしたら、雄にも逃げる余裕はある
雄が餌を取って来て、雌に与えるという形の愛だってある
雄の体が持つ何らかの成分が子供の成長の為に必須だとしたら
DNAに書き込まれた情報はのっぴきならない行動を要請している
愛と憎しみの感情を操作して、冷静で確実な行動を規定している
愛の中の九十九パーセントは憎しみと対になっている
物を食べて成長する度に、憎しみと愛の対が増大して行く
食欲と性欲は憎しみから生じる
雌は雄に対して復讐する
それは憎しみの確信の最後の跳躍
雄は雌に対して欲情する
それは愛の不信の最後の到達
愛の九十九パーセントは憎しみと対になって消滅し、一パーセントが残る
そして、世代が代り、愛が生まれ、憎しみが育つ