65.魂

魂は不滅と信じた時代があった
しかし、魂自体が不滅への意志を持つとは考えられなかった
魂は滅び易いとも考えられている
滅びに至る門は大きく、その道は広い

しかし、信仰により罪を許され永遠の命を得る
魂は粒子のように不滅なのか
波動のように移ろい易い存在なのか

RNA・DNAはもう三十五億年以上も生き続け、不滅へのあくなき意志を持ち続けている
最初のRNAが蛋白質を合成し、細胞を造って以来
すべての生物はRNA・DNAの表現体であり、時間の中の旅を続けている
この強い不滅への意志は何処から来たのだろう

遺伝子DNAのプログラムの中にどのようなコードとして書き込まれているのだろう
そのコードを失うと僕達は不滅への意志を失うだろうか
魂の抜けがらのように

それとも、どんな小さな遺伝子もその構造上、不滅への意志を持つのだろうか
どんな小さな磁石もN極とS極を持つように
RNA・DNAが遺伝子になった瞬間、不滅への意志を持つ

ミス・サイゴンが愛と憎しみの逃れられない運命の中でDNAの不滅を願った
そして、その魂は狭き門を通って、確実に僕達に受け継がれた
魂はDNAの不滅性を表現したものであり
僕達がすべてを信じ、すべてを耐えて
DNAが受け継がれるとその結果が魂の救いとして表現される

鎮魂歌が歌われるとき、失われたDNAへの哀惜が胸を打つ
それはDNAからDNAへの祈りとして伝達され、コードとして記憶される
僕達は祈りを伝達して、宇宙の鼓動を受取っている

人は魂の輝きに引きつけられる
澄んだ心の音色に魅了される
魂の輝きも音色も感じることはできる
しかし、何処にあるのか分からない

魂はすべての人にあるし、小さな虫の中にもある
何処にでもある
何処にでもあるということは何処にもないとも言える
魂は吹き渡る風のようなもの
不滅だと信じることもできるし、簡単に滅びるとも思える

地球上のすべての生物はRNA・DNAと二十種類のアミノ酸でできている
この中のどこかに魂はあると思えるし、実はどこにもないとも思える
空気があって、ピアノの音が聞こえる
その音が魂なのかも知れない

僕達の存在は魂を輝かせ、良い音を出す為のピアノや空気のようなものだろうか
魂はDNAが出す波動であり、その不滅への意志を表現する光だ
光が電子に変わるように、魂もDNAに変わることができる

降りそそぐ光のように、魂も愛の時空間を通ってやって来る
そして、ミス・サイゴンの愛と死が僕達の心に記憶された
DNAは魂によって受け継がれ、宇宙と意識の変化を受け入れる