62.黒いキャミソール

辛夷の花が胡蝶のように咲いている
春の冷たい雨が辛夷の花を濡らしている
夜の雨の中で辛夷の花が雪柳と話している

外灯の淡い光の中で
雪柳の白が空気の中に浮かんでいる
重々しく咲いた白い木蓮が雪柳に話しかけている

この冷たい雨は春の女神の先触れなのよ
春の女神が来たときに白い花の中で誰が一番か決めたいものね
パリスのような男はいないかしら

宝石店の女が言った
私の趣味は一番が男、二番がエアロビクス、三番が酒、四番がカラオケ、五番が恋愛
好きな彼氏が一人いて、もう一人つき合っている男がいる

宝石の仕事が楽しくて、ダイヤモンドを見ていると吸い込まれそうになる
結構忙しいんだけど、もう一人つき合ってプラスになる男が欲しい
私の美しさは武器なんだ
黒いキャミソールだけで、二匹の犬と暮らしている

白の美しさでは雪柳が一番
胡蝶のように軽やかに舞う姿の美しさでは辛夷が一番
白い木蓮は宗教的な重々しい豊穣さで他を圧している

もし、逆にこの白い花達が男神で
パリスのように美しい
黒いキャミソールの女が審判をするならば
立派な正しい審判をするだろう

そして辛夷が一番と決めて、ベットの中で
黒いキャミソールを脱してもらうだろう
嫉妬に狂う木蓮を宥めて雪柳が言う
大丈夫、あの女は一人の男では満足しない

辛夷の軽さにすぐ飽きて、僕の白さとあなたの重さに魅惑され
僕達のベットにも
キャミソール一枚でやって来る
そして僕達三人をそれぞれ違ったやり方で同じように愛するだろう
あの女はパリスより利巧だ
自分の美しさを武器だと知っている

パリスだって、ヘレネーがいくら美しいと言っても、ヘレネーを連れて逃げたりせずに
アテネーもヘラも同じように愛すればよかったんだ
そうすれば、あんな戦争は起らなかったのに
もうすぐだ、黒いキャミソールの女の審判は