58.三姉妹
十代の三姉妹が一緒に風呂に入り
青春の希望と愛を湯船一杯に撓き立てている
人魚姫のように足を伸ばし、上気した体を湯に浮かべ
滑らかな弾けるような膚に水を掛け合っている
六十年経て、三姉妹が子や孫の結婚式も見て
夫の死にも会って、再び風呂に入っている
年老いて痩せ過ぎた一番の美人の姉が、太り気味の妹に
お肉をちょっと頂戴よ、と他愛のないことは六十年前と同じ
物の一部のような気軽な肉の貸借り
信じられないことだが、それは可能
生命体の合体と貸借りこそが
僕達のような多細胞生物の基本
原始地球の酸素のない大気の中で生命は発生し、嫌気性細菌が繁栄した
その中から進化した藍藻が光合成を始め、酸素を大量に放出した
嫌気性細菌は生きられなくなり、酸素の好きな好気性細菌が繁栄するようになった
滅びかけたある嫌気性細菌が好気性細菌と合体して
多酸素の環境の中で生きて行くことができるようなったのが僕達だ
合体あるいは体の一部の貸借り、交換、寄生
あらゆることをして共生し
環境の中で存続への努力を続ける
マクベスに出てくる奇妙な物質を撓き混ぜている三人の魔女が生命の元だ
必要なら男だって作る
馬鹿な男が炭酸ガスを放出し過ぎると
奇妙で力強い嫌気性細菌のところへ行って
出番よ、と十代の処女のように頬を染めて伝えるだろう
そしてヒトの所へは終りだよ、と老婆は跛を引いてやって来る