56.妖精
ミズリー州カムデントン、オザーク湖から一人の少女がパリに来た
セーヌ川とマロニエを見て、七月の陽光の中で
ノートルダム寺院の影と木の影が異なる時刻を示す
マルケの絵のような時間を過ごした
そして、エジプトと台湾を経由して東京に来た
原宿の欅を見て、八月の炎暑の中で日本庭園の蓮の花が
時間の静止を示すモネの絵のような時を過ごした
十月、僕はオザーク湖に行って少女に会った
秋の透明な光が湖水に煌き、山の木々は紅や黄に色づき
世界が静かな生れ故郷の懐かしさに満ちていた
少女はここで生まれ、妖精のように世界を廻った