41.出会い

大分発、東京行き最終便
冬の海の夜風が冷たく機体に吹き
管制塔のレーダーが空に向かって電波を捕らえている

暖かくコートに身を包んだ温泉帰りの女や男
忙しそうに歩く出張の会社員
受験や休暇の若い男女学生
乗客の誰もが旅行の為に軽く興奮し
飛行機の中でのサービスと安逸を期待していた

中年の女が座席を探して通路を歩いて来た
贅を凝らした深緑の上着に繻子の長いスカート
太った体が敏捷に動き裕福な生活に体が適応していて
見る人を豊かな満ち足りた気分にさせる

好奇心に溢れた目が僕の隣の席を確認し会釈して席に着いた

離陸後、話す切掛けを掴むかのようにライトはどのボタンですかと僕に聞いた
旅の常套句どちらに行かれるのですかと聞いてみた
飛行機は東京に決まっているので、笑って東京と答えると思ったら
池袋の先の西武線の・・・駅と詳しい話が始まった

孫の初節句に息子の所へ、夫はもう昨日から行っている
娘は関西にいて、結婚して子供もいる
家族の幸せを子供達の仕事や性格も含めて話してくれた
彼女自身は四十五年前十歳のとき満州から引き揚げて来て苦労した
今は皆な幸せだ

寿司弁当が二つある、一ついかが
別府湾の魚祭寿司は非常に美味で
彼女の幸せを分けてもらったようで空腹に染込んだ

イエスは五千人を五つのパンと二匹の魚で満腹にして心も満した
僕達は彼女の幸福の中に潜んでいる空虚を
美味しい寿司と共に噛み緊めている
初めて出会った僕に弁当位で空虚が埋められるものか

だが一つだけ方法がある
僕が神に出会ったと考え、あなたも神に出会ったと考えればいいんだ
誰でも背中に神の香気を持っていることに気づけばいい

僕達は地球という木に生えた一枚一枚の葉だ
時々他の葉と擦れ合う
そして時が来れば落ち葉となり再び芽生える
根元に神の香気を持っている