30.真・善・美

人間の叡智が真・善・美を求める
真と善は輝く太陽のように明らかだが
美とは何か、どこにあるかがよく分からぬ

光と闇の交錯する所に存在し、常に過ぎ行くもの
荘厳で華麗な天上劇の夕焼けも
丹精込めた職人芸の色鮮やかな花火も
一瞬のうちに闇の中へ吸い込まれて行く

二十歳の女の晴着の衣装の絢爛とした
開花の美も僅か十回の公転の後には色褪せる
年老いて杖をつき跛を引いて歩く
老婆の姿に過去が甦り美の存在を確信する

美とは対称性の破れであり、創造の泉であり
女の成り合はぬ処と
男の成り余れる処の合体であり


非対称から対称への回帰
対称から非対称への転移である


ソクラテスが真偽の彼岸に立ち
ニーチェが善悪の彼岸に立つならば
僕は美醜の彼岸に立ちたい

それは意識を消すことであり
次の瞬間、地球の自転が止まったとしても
目の前にいる人と一緒に美の中に包まれる