28.孤独な回転

女と雪解け道の上を歩いた
永遠の女性と思って愛しているが
何処にも愛の兆候はない

春浅い風が二人を隔て
人生についての無駄な会話が
心理の上をぎごちなく流れて行く

心の回転に歯車を合わせられない
僕の愛を知覚はしても単に過ぎ行く魂だ
軽い別れの挨拶をして踝を返して去って行く

雪雲に晴れ間が見えて
やっかいな義務を果たした身軽な足取りで
雪を踏んで遠ざかる

寂寥の中に取り残されて
城下町の雪道の懐かしさの中に
愛する人が去るのを見つめていた

女とエッフェル塔に登った
夏の夜、沢山の恋人達が
エレベータの順番待ちの間にも

抱き合い、触れ合い
恋の
夢と欲望に身を委ねていた

僕達は何度も裸で見つめ合い
滑らかな膚に触れ合って
美しい裸を鏡の中に発見したのだが

今は生真面目に手も触れず
押されて体が触れるのにも
注意を払った


ガラスのように繊細な天使
風の強い中で煙草を吸う
という女の風よけとなった

天使よ、そばにいておくれ
と心で願っても
深い悩みと共にパリの街の灯を
遠くに見つめて煙草を吸っている


モンマルトルの丘の教会の灯りが愛を伝え
ノートルダム寺院が荘厳な姿を
セーヌ川に煌かせ
夜の静けさの中でパリの灯が
孤独の深さを遠くかなたまで伝えていた


月の女神と思った女と原宿の欅の下を歩いた
秋の午後の太陽が青い空を輝かせ
清々しい風が欅の葉を軽く揺るがせている

女は青白い美しい頬を怒りの為に火照らせている
私は人間だ月の女神ではない
ルーブルにある弓を持つディアナに似ているのは
私ではなくあなただ


人間に会える所へ行く

女は足が長く、大股で、人間の威厳に満ちた姿で
美しい横顔を見せて走って行った


僕は決して終わることのない寂寥に包まれて
走り去る女を見つめていた


もし、僕達の母なる大地、青い惑星が
自分が回転していることを知らないとしたら

太陽だって、光を送っているだけだから
僕が回転しているのを知らないだろう

僕は昔馴染めの孤独な回転球の上にいる