20.多摩川

十二月の満月の頃、朝早く
川下から陽炎が立ち川面を照らし
川上の山の端に月が傾ぶき
帯となった
川の水を真中に
恋する兄と妹のように
見つめ合っていた

煌めく川の水の一滴一滴が新しい生命で
川の石も堤防の草も
川そばの木も
いつもはくすんだ家々も
生まれたばかりの始めての光の中で
一瞬一瞬が奇跡であることを示していた

見ているうちに月は沈み、太陽が昇り
地球が宇宙の定められた場所で
静かに回転するこまであり
僕達はその孤独なこまの上の
小さな魂に過ぎないと知る

でも、聞きたい
土で作られ多摩川の水で育てられた僕達は
光の兄妹に愛されるかしらと