17.一夜の恋
佐渡のホテルの宴会サービス兼仲居
年の頃 六十に手の届く
笑顔が明るい 身軽な女
素早い動作で酌して回り
エッチな会話で座を持たす
恋の誘いに乗ってはみても
本気かどうか 分からない
尻軽オバンの言うことにゃ
強壮剤を一緒に飲もう
でも この和室
六人部屋の 雑魚寝では
今宵は 無理よ ここまでよ
明朝六時 夜も明け切らぬ
宴会の余韻を残す大広間
誰もいなくて 広々と
邪魔の一つも入らない
きっと 六時に 来て頂戴
宴会の酒の残った 頭と体
温泉に入り 正気に戻しても
期待は残る 大広間
目覚し時計は ないのだが
きっちり 六時前に 目が覚めた
朝の静けさ ホテルを包む
長い廊下を 通り抜け
厨のそばの 大広間
着いては見たが 相手はいない
これは 夢かとあきらめかけた
佐渡の海 寄せ来る波に
風寒く 部屋に取って返そうと
昏き廊下を 一人だけ
階段を登り 角を曲がった
朝の仕事を てきぱきと
始めたばかりの恋人が
何の不自然さも なくて
明るみ始めた 廊下を一人
小鳥のように 軽やかに
あんた 探してたのよ
大広間 襖をこっそり開けて見て
舞台のそばの 座布団置場
逢瀬の声も 秘めやかに
手を動かして 必要な
準備も 素早く
長年の恋人のように
呼吸を合わせて 体も合った
朝八時 朝食の時 大勢の
客に給仕をする恋人が
愛想を振りまき 男の客と
何の屈託もなく 笑っていた