10.寂滅の愛
玉の緒よ、と呼び掛けられれば
沢の蛍も魂もお供をします、とついて行く
愛する人の為には死んでもいい
月が出て海を照らし、波の音に合わせて
接吻を繰り返す山下公園の恋人達
松に月がかかり
時間が二つの心臓の音によって刻まれて行く
蓮の葉の露ほどの命が永遠を獲得するとき
唾液が交じり合い、体液が交じり合い
そのときエイズも移って行く危険な瞬間
うまく行けば命は繋がり、悪くすれば寂滅
神様、これは何分の一の確率ですか
鰯は腹に大量の卵を抱え、
飛魚は少ない卵の代わりに長い胸鰭を待ち
危険から飛行で逃れ、恋人と交わる
あなたは言った
「私は人魚姫なの、いつでも男を誘惑するの。」
僕も言いたい
「僕は源氏蛍だ、いつも女を誘惑するんだ。」