23.思わぬ誘惑
若い女と晴れた五月の昼下りにイタリアンレストランで食事した
五月の風のように会話が笑っていた
窓越しに欅と楠の若い芽が溢れる光と戯れている
スパゲッティを食べる男のフォークとスプーンが
銀色に輝き、女の眼に眩しく映った
一年前、食あたりで一週間ぐらい入院したことがある
下痢と吐き気で本当に辛かった
でも治って来たときは楽しかったよ
若い医者が診てくれたんだけど
胸を開けて、というときに顔を赤くしてた
私は何でもないから、すぐにパジャマのボタンをはずして
胸を出したけど
その人は胸を真直ぐに見ずに診察してた
本当におかしかった
僕は完全に誘惑された
若い女の胸は小さいけれど、きっと可愛いに違いない
ぜひ見たいと心の底から憧れた
七月にパリの公園の中を女と歩いた
午後の陽光は明るく
水着で読書する孤独を装った女や
恋人といてジーパンの上半身をブラだけにした女や
思いっきり肌を出して日光浴をする挑発的な若い女が
あちらこちらに目についた
公園の池はたっぷり水を湛え
その中に自然にできた大きな島は高く聳え
露出した岩とその周りに生えた木が年月をかけた調和を示していた
島の頂上からは遠くにパリの街が見え
モンマルトルの教会も午後のけだるさの中にたゆたっている
愛の苦悩と人生についての会話がぎこちなく流れて行く
少し前、島への橋を渡るとき水を見ながら女が言った
一週間前、ニースに行って海水浴をした
トップレスが普通みたいだったから
一緒に行った友達がブラをはずしてトップレスになった
でも私はトップレスにならなかった・・・
僕は誘惑されたことを隠して、冷静を装った声で
皆んながトップレスではないでしょう
何パーセントぐらいだったのと聞いた
女は少し考えて、そうね、三分の一くらいと答えて
僕の顔を見た、誘惑したのに気がついた
女にとって裸の意味とは男を誘惑することね、と女は哲学的だった
僕は見かけの哲学を装うことに疲れてしまった