20.荒野の起伏

オレゴンのコロンビア川を遡り
ダレスを過ぎると川幅が少し狭くなり
豊かな水の流れに対岸の山が近づき

川と山とが昔馴染みとして賢者のように静かに語り合っている
山では背の高い針葉樹が深い森をつくり
川では森に清められた水が沢山の鯰や鮭や鱒を棲まわせている

しかし、突然、樹木のない山々が現れる
丸みを帯びた山の表面の起伏を丈の高い草が
初秋というのに枯草色で一面蔽い尽くしている

失われた樹木の跡に草が生えたのか
元々の荒野に草が進出したのか
この柔らかな起伏は孤独と憧れと拒絶と愛を同時に感じさせる

荒野の山の中腹に美術館があり
そこからなだらかな山の起伏とゆったり流れる川が
雄大な景色として一望に見渡せる

愛する女はずっとその荒野の起伏を見つめている
雌の狼のような孤独な表情
憧れと愛がいつまでも続くものかどうか

愛に魔法があるならば荒野の石をパンに変え
この世界の中で生命の糧を得ることができる
しかしそれは試してはいけないことなんだ

愛のみでは生きられない
荒野の石をパンに変える努力こそが
生命や雌狼が昔からやって来た習性なのだ

自分の愛を心の奥に沈殿させ
堆積岩のように愛したという記憶だけを残し
愛されたという甘美な思いを胸に生きて行く

僕は同じようにこの明るい雄大な川と荒野の起伏を眺めていたが
愛がいつまでも続くものだと思っていた
女の胸のようにそして豊かな尻のように滑らかな曲線

柔らかい風に靡く草が
女の髪と一緒に僕を誘っていると思った
しかし愛する人は僕との愛を終わらせることに思考を集中していた