19.情事
最も清純な魂と最も高潔な人格が昼下りに出会った
ハチ公前には沢山の男と女が相手を待っていた
若者達が所在無く歩く道玄坂を手を繋いで登り
入口が小奇麗で手入れの行き届いた愛のホテルに入った
清純な魂が欲望という淫らな服を付け
高潔な人格が淫猥という隙のない服に身を固めている
手、眼、唇、首とキスの範囲が拡大するに従い
女が美的センスの良い服を男が堅実な背広を脱ぎ捨てる
ヒューマニズムと個人主義と近代精神の行き着く先は分かっていた
個人と個性の尊重が個人の差異を最大限に確認するという偏執へ導き
上着、シャツ、下着、靴下と脱ぐほどに美への期待が膨らみ
ストリッパーのように一枚一枚服をを脱ぐ
すべて脱ぎ去ったときに個性の極大値が現れると思った
その瞬間、素裸が何の個性も示さずに
単に二枚の木の葉のように頼りなげに揺れている
ロダンの彫刻のように美しくはないが愛惜はある
ヘアヌードの女と陰茎もろ出しの男
裸という衣裳を大急ぎで身に着けて
愛の擬態の中に身を隠し
快楽の中に存在の不安を忘れてしまう
これが僕達の愛であり、希望というコピーをつくるときの
避けがたい行為であり、唯一の方法
清純な魂よ、高潔な人格よ、恐れることはない
あなたがたの愛がすべてだ