チップの話:その2.枕銭の呪縛、の巻。
初めての海外旅行は、大学が主催する3週間のヨーロッパツアーだった。そのとき、友だちがキャンセルしたので、ひとり部屋でそのツアーに参加している人がいた。確かフランクフルトでだったと思うが、1日目の朝、彼女は枕銭を置き忘れてしまったのだという。観光から帰ってきてみると、彼女の部屋は全く掃除されておらず散らかり放題のまま。が、その翌日の朝、通常の倍の枕銭をしのばせてみたところ、帰って来たとき、彼女の部屋はピカピカに掃除されていた。
「へぇー。そうなんだー。やっぱ枕銭を置かないとダメなんだねー」。私と友は、その話を聞き、日本と違う習慣に、ひたすら驚いた。そして、それ以来、私の中には、枕銭を置き忘れたらたいへんなことになる、という情報が刷り込まれたのであった。毎回、旅行をするたびに、忘れてはならじ・・と肝に銘じ、寝る前から枕元に用意しておくこともあった。
10年ぐらい前にひとり旅をしたときのことだ。セントアイヴスで、B&Bに泊めてもらった。ダブルの部屋しかない所だったが、シーズンオフだったこともあり、シングル料金で泊めてくれるという。最初の朝、いつものように枕銭を置いた。そして、2日目。いつものように枕銭を入れようと枕をどけてみたところ、昨日置いたコインがそのまま、そこに残されていた。「あれ? 気づかなかったのかなぁ・・」。ダブルの部屋にシングル料金で泊めてもらったこともあり、申しわけない、という気持ちもあった。というわけで、悩みながらも、2日分の枕銭を枕の下に置いた。が、3日目。またもチェックしてみると、2日分の枕銭がそのままになっている。うーん。これっていらないってこと?? しばし悩んだ末、チェックアウトのその日、私は3日分の枕銭をじゃらじゃらと枕の下に置いたのであった。
そして5,6年前。イギリスに留学していた友と、再びセントアイヴス方面を旅行する機会を得た。セントアイヴスでは宿がとれず、ペンザンスで宿をとることになったのだが、着いた翌日の朝、枕銭を置こうとすると、友が言った。「B&Bでは、枕銭なんかいらないわよー」。え? 私は、それまで、いつも枕銭を欠かしたことはなかった。思い起こしてみても、受け取ってもらえなかったのは、はじめてセントアイヴスを訪れたあのときだけだった。「いいのぉ? 本当に?」、と半信半疑だったが、「枕銭はいらない!」、と言い放つ友の勢いに押され、結局、枕銭はおかなかった。が、
その日、観光から帰ってきてみると、バスタオル類が昨日のまま。「ね、これって、枕銭を置かなかったからなんじゃないの?」、と、私は友に問いかけたが、「普通、タオルなんか、毎日取り替えてくれないわよー」、と友は言う。枕銭を置かなかったことと、タオルを取り替えてもらえなかったことには本当に因果関係があったのか、なかったのかはいまだにわからない。が、ひとりいぶかしんだ私である。
実際、「環境のためにご協力ください」というフレーズとともに、タオルを取り替えてほしい場合は、タオルをバスタブの中や床に置いてください、と書かれているのをよくみかける。以前はイギリス人には毎日お風呂に入る習慣がなかった、という話を聞いたこともあるので、もしかすると、イギリス人ならタオルなんて1週間ぐらい使い続けるものなのかもしれないが、自宅では、毎日、タオルを交換している私としては、なんだか気持ちが悪く、快適な宿とはいえなかった。
というわけで、このあとも、私は、B&Bであろうとホテルであろうと、枕銭を起き続けてきた次第。
ところが、英会話の先生のジョン P.に言わせると、枕銭なんてものはイギリスには存在しないらしい。「そんなものを払うのは日本人だけだよ」。マジにィー?確かに、たかが50ペンス=約100円*をもらって、ありがたがって掃除を念入りにするか?、と聞かれれば、答えは「ノー」だろう。とすると、やはり枕銭は不要なのか? はたまた、塵も積もれば何とやら・・で、ありがたいものなのか? うーん・・。。
が、もし、ほとんどすべての日本人が、イギリスの至る所で枕銭を置きまくっているとしたら、ホテルやB&Bの人は、日本人なら枕銭をくれるのが当たり前、と期待しているかもしれない。とすると、日本人の私が枕銭を置かなかったとしたら、彼らは、「なんだ、このケチ!」、と思って、怠慢な仕事をするかもしれない。とすると、やはり日本人である私は、枕銭を支払うべきなのか? と、ドツボにはまってしまうのである。
* ジョン P.いわく、「50ペンスってーのはケチなんじゃない?」。彼自身は枕銭を支払うことはほとんどないが、彼の考えでは、毎日置く必要はないけど、最低1ポンド、本当は2ポンドぐらい払ったほうがいいんじゃないか、とのこと。「でも、ガイドブックには50ペンスって書いてあるよー」と言う私に、「いつのガイドブック?」と聞く彼。が、調べてみると、今年購入したガイドブックには、やはり50ペンス、と記載されていた。もし、イギリスに枕銭というシステムがないのだとしたら、いったい誰か、どうやって、これぐらいの金額が適当、と決めたんでしょうねぇ?
(2004.9.4)
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