オスカー・ワイルドはお好き?

Oscar Wilde



 私のオスカー・ワイルド初体験は、趣味で始めた英会話の授業でだった。"The Importance of being Earnest(真面目が肝心)"。主人公のJohn Worthingが、恋人のGwendolenとの結婚を認めてもらうべく、彼女の母親であるLady Bracknellに挑むときの.、彼女との会話は、なんだか、とっても笑えるものだった。
 「あなた、タバコはお吸いになるの?」
 「ええ、まぁ・・その・・、吸います」
 「それはよろしいこと。・・・(略)・・・それで、お年は?」
 「29歳です」
 「ちょうど結婚にいい年頃ね。私、結婚したいと思っている男性は、何でも知ってるか、何も知らないほうがいい と考えてますの。で、あなたはどちらかしら?」
 「何も知らないほうです、Lady Bracknell」
 「それはよろしいこと。・・・(略)それで、収入はいかほど?」
 「年収にして7000から8000ほど」
とまぁ、こんな風に、Lady Bracknellは、娘のボーイフレンドが結婚相手にふさわしいのか、矢継ぎ早に質問していく。途中までは、まずまず気に入ってもらえるのだが、「ご両親は健在でいらっしゃるの?」と尋ねられ、「ふたりともおりません」と答えてからの展開が何とも言えずに面白い。Lady Bracknellの反応は、「おふたりともですって? おひとりだけならお気の毒ですけど、おふたりともとなると、なんだか不注意(carelessness。お気楽という意味でしょうか?)に思えますわ」、と情け容赦もない。挙句に、Johnが実は素性もわからない若者で、赤ん坊のころ、ヴィクトリア駅のBrighton線のクロークルームに預けられていた黒い革のハンドバッグの中から発見されたのだと知るや、一人娘のGwendolenを誰がそんな男にやれるもんですか、と去っていってしまう。
 まぁ、当然のリアクションと言えばそうだけど、私はといえば、「黒い革のハンドバッグだなんて、なんてユニーク! そして、名前のWorthingの由来は、間違ってそのバッグを渡された親切な老紳士、Mr Thomas Cardewが、ポケットに入れていたファーストクラスのWorthing行きのチケットにちなんだものだったとは・・。はっはっはー!」、と、すっかり、ワイルドのシナリオに魅せられてしまった。
 おまけに、彼の恋人のGwendolenはといえば、彼の名前が気に入ったから、彼を好きになったのだと言い出す始末。そこで、Johnは最高にあせってしまった。なぜなら、Johnは、Londonでは、本名のJohnではなく、Earnestという偽名を名乗っていたからだ。Earnestという名前は、音楽のような響きをもっている、とうっとりするGwendolenに、Johnは、「僕は、もっといい名前がたくさんあると思うな。たとえば、その、Jack(彼の本名であるJohnのニックネーム)なんかチャーミングだろ?」と言うが、Gwendolenは、Jackなんて名前はまるでつまらない、と突っぱねる。
 なんてナンセーンス!! 偽名なんか名乗っていい気になって遊んでるから、こんなことになるのよー。
 でも、ここで、もっと笑えるのは、私の英会話の先生が、Johnという名前であるということかな・・。

 というわけで、次に、ワイルドの他のお芝居のあらすじを、ちょこっとご紹介。面白そーっと、思ったら、ぜひぜひ、読んでみてくださいね。

A Woman of No Importance つまらない女
 アメリカ娘のHesterは、Lady Hunstantonが所有するイギリスのカントリーハウスに招待される。そのほかの招待客には、夫のことばかりかまっているLady Carolineと彼女の尻に敷かれているSir John、そして、美人だけれど何も考えていない(?)Lady Stutfieldやちょっと曲者のMrs Allonbyらがいた。そこへ、彼女が好感を抱いているGerald青年がニュースをもってやってくる。「Lord Illingworthが秘書にしてくれるっていうんです」。早くに父親を亡くし、出世の望みもなかった自分に、チャンスがやってきたのだと興奮気味の彼に、Lady Hunstanton祝福の言葉を送るが、Hesterは、そんなことに何の意味があるの?、と切り返す。
 さらにHesterは、イギリスの上流社会は最高!と考えている彼らに、きどっている彼らのくだらなさを指摘し、アメリカ的な彼女の考えを披露し、みんなの度肝を抜いていく。
 そして、Geraldを祝うべく、久しぶりに皆の前に姿を現した彼の母親であるMrs Arbuthnotは、Lord Illingworthを見るや、態度を豹変し、息子が彼の秘書になるという出世話に反対する。はたして、それはなぜ?
 いやはや、目が離せない展開ですねー。

お気に入りのセリフ Nothing should be out of the reach of hope. Life is a hope.(夢みちゃいけないことなんて何もないわ。人生っていうのは希望をもつことですもの)−−Hester
うーんと、うならされるセリフ The soul is born old but grows young. That is the comedy of life. And the body is born young and grows old. That is Life's tragedy.(精神は生まれたとき成熟しているが次第に若返る。これこそ人生の喜劇である。しかし、肉体は生まれたときには若いが次第に年老いていく。これこそ人生の悲劇である)
ポイント そして、このお芝居でも、妻に振り回され、ふがいない男の名前はJohnだ。ワイルドには、Johnという名前の、よっぽどつまらない知人がいたのか・・。


An Ideal Husband 理想の夫
 Sir Robert Chilternは、前途洋々とした若い政治家で、誰から見ても理想の夫だった。妻のGertrudeもそんな夫を崇拝し、尊敬していた。しかし、ある日、彼らの家のパーティーに、悪名高き(?)Mrs Cheveleyがやってきて、Sir Robertと何やら密談を始める。そして、信じられないことに、彼女が帰ったあと、Sir Robertは、国益にならないからという理由で、これまで反対してきたArgentineのCanal計画に賛成する、と言い出したのだ。
 それはなぜか? 実は、Sir Robertの人生には、1つの汚点があった。家が貧乏で、出世の望めなかった彼は、20代のころに持ちかけられた儲け話にのり、Lord Radleyの秘書という立場がら入手した、政府の極秘情報を、Baron Arnheimに事前にもらし、その分け前として、ある程度の報酬を得ていたのである。彼の今の地位と財産は、そのときに得た報酬を基盤としたものだった。
 Baron Arnheimの死によって、秘密が漏れることはないと安心しきっていたRobertに、Mrs Cheveleyは、彼の不正の証拠を突きつける。もし、私があなたの秘密を暴露すれば、あなたは将来の望みも何もかも、すべてを失うことになるわね、と、彼女はほくそえむ。彼女の望みは、お金ではなく、自分の出す切り札に振りまわされる、Sir Robert、ひいては若いころから犬猿の仲だった彼の妻、Gertrudeの苦悩だったのである。
 と、ストーリーはなかなか難解(?)で、ユーモアのかけらすらなさそうだが、実はどうして、どうして、この物語には、Sir Robertの親友であるLord Goringと、Robertの妹のMabelとの、テンポの速いユーモアあふれる会話をはさんだラブストーリーが盛り込まれている。
 「おはよう、Mabel」と、挨拶しているのに、まるで彼の姿が見えないかのように、すっかり無視されてしまっているLord Goring。彼の口調は、おはよう、を繰り返すことに強くなっていく。そして、Mabelは、彼の何度目かの「おはよう」にやっと反応する。
 「あら、あなた、そこにいらしたの? わかっていらっしゃるとは思うけど、私、約束を破った方とは、2度とお話をするつもりなんかありませんのよ」
 「あぁ、お願いだ。そんなこと言わないで。話を聞いてほしいと、僕が本当に思う人は、ロンドン中探したって君だけなんだから」
 「私たちが交わす言葉なんて、私が言ったことですら、ただの1つも信じられないわ」

 ふたりは、ジャレあいともいえる、ポンポン、ポンポン、と弾む会話を楽しみ、観客もその会話に引きずりこまれる。
 そして、Mrs Cheveleyの堂にいった悪女ぶりも見物だし、Sir Goringによって、窮地に追い込まれ、次第に顔色が悪くなっていく彼女の姿も滑稽である。


Lady Windermere's Fan ウインダミア卿夫人の扇
 幸せな結婚生活を送っているLady Windermereの誕生日の日、Duchess of Berwickがやってきて、彼女の夫のLord Windermereが、年配だが美貌の持ち主であるMrs Erlynneとどうやら浮気しているらしい、と告げる。半信半疑だったLady  Windermereだが、夫は帰ってくるなり、彼女の誕生日パーティーに、その当人のMrs Erlynneを招待したい、と強く主張したため、彼女の不信感は広がっていく。
 そして、パーティー会場で、仲良く語らう二人の姿をみかけたLady Windermereは、その場の激情にかられ、かねてから自分に好意を寄せてくれているらしいLord Darlingtonのもとへ出奔してしまう。
 ところが実は、Mrs Erlynneは、彼女が幼いころに死んだものとばかり思っていた彼女の母親だったのである。子供を捨て、男と駆け落ちをした過去を背負い、娘に名乗りをあげることができない母親。娘に会いたい一心で、ロンドンに戻ってきたのだが、娘のLady Windermereの窮地を救うため、娘の犯した過ちを自らにかぶって、また、遠い土地へと去っていく。
 そのことによって、ロンドンの社交界での彼女の評判は地に落ちてしまうが、娘との間には、ある信頼関係が生まれていた。
 という、ちょっとお涙頂戴のストーリー展開になっている。
 なんで、名乗り合えないのかなぁ・・という点が、上流社会人でない一般人の私には、ちょっと解せないのだが、わかるような気もするなぁ・・とも思う。

ふふっと笑えるセリフ Men become old, but never become good.(男は年老いても、決してよくはならない)
ふふっと笑えるセリフその2 Whenever people agree with me, I always feel I must be wrong..(人々が私に同意すると決まって、自分は間違っているのではないか、と思い始めてしまうんだ)

ロンドンのチェルシー、Tite Streetには、かつてオスカー・ワイルドが住んでいた家が残っている。






アフタヌーンティー〜カドガンホテル:オスカー・ワイルドゆかりのホテルにて

アガサ・クリスティーはお好き?


TOPへ

イギリスへ行こう!

やはりロンドンが好き!


(2001.10.9)
English