ケンウッド・ハウス

K e n w o o d  H o u s e


 ノッティンガムにある自分の家をマスコミが取り囲み、取り乱したアナと納得のいかない別れ方をしてから半年。もう彼女のことは忘れたから・・と言いながら、アナがまた、映画のロケのためにロンドンに来ていると知って、思わず、訪ねてしまったウィリアム。運よく、アナに会えて、彼女の撮影が終わるのを待ちながら、スタッフから、映画のセリフを聴いていていいですよ、と 渡されたヘッドホンをはめた途端、アナと共演男優の会話が聞こえてきた。
 「さっき話してた男は誰なんだ?」
 「誰でも 過去の人よ 何しに来たのかわからないわ」
 そうか・・。ウィリアムは淋しくほほえんで、その場を立ち去る。
 映画「ノッティングヒルの恋人」で、こんな場面が展開されるのが、ロンドン、ハムステッドから少し行ったところにあるケンウッド・ハウスだ。

 その日は、tite streetにあるオスカー・ワイルドの家に行って、キングスロード界隈をうろつこうと決めていたのだが、まだ9時過ぎ。時間が早すぎてお店も開いていないだろうから、と、突然、午前中はケンウッド・ハウスに行ってみようか、と思い立った。
 ノーザンラインに乗って、最寄り駅のハムステッドに到着。どうにかなるさー、と降り立ったのだが、「ケンウッド・ハウスはこちら」なんていう標識は見当たらない。はてさて、と思ったとき、ふと、郵便局が目に留まった。郵便局の人ならわかるかなー。とりあえず、中に入ってみることに。写真を見せながら尋ねてみると、
 「うーん。見たことないわ。駅で聞いてみたらいいんじゃないかしら?」という返事。本当にここって、最寄駅なのかなぁ・・とだんだん不安になってきた。
 でも、駅に戻って聞いてみると、「あぁ、ケンウッド・ハウスね」といった感じで、「丘をのぼりきって、道が交差しているところに出たら右に行って、15〜20分ぐらいかな」と教えてくれた。ほっ・・。
 とはいえ、丘をのぼりきって、という感覚がいまいちピンと来ない。なんかここを右に曲がるとありそうだなー、と思ったところで、適当に右に曲がって、坂を下ってみた。うーん。えんえんと下ってみたけれど、なんだか、違うみたいだなぁ・・。そこで、車に乗り込もうとしている女性に声をかけ、また道を聞いてみた。
 「あぁ、これね。こっちじゃなくて、大きな公園があるところまで丘をのぼって(またぁー・・)、それから右に行ったところよ。でも、ずいぶんあると思うわ。たぶん40分以上、かかるんじゃないかしら」
 ひぇー、40分! 駅では15分って言ってたみたいだったのに、もしかして50分って言ってたのかなぁ・・?。と、なんだかすっかり疲れてしまった。でも、ここまで来て、このまま、すごすごと引き返すわけにも行かない。さぁ、もうひとがんばり!、と丘をのぼっていった。
 しばらくすると、バス停が見えてきた。そばに行って、確認してみると、ケンウッド・ハウスにも止まるという。210番のバスか・・。何しろ、「40分はかかると思うわ」、という言葉がずーんと来てたので、バスを待つことにした。
 10分ほど待って、やってきたバスに乗ったのはいいのだけれど、かなり遠いんだろうと思い込んでいた私は、すぐ近くにあったケンウッド・ハウスのバス停に気づかず、そのままえんえんとバスに揺られていったのだった。
 というわけで、途中、気づいてバスを降り、とぼとぼ歩いたり、ようやく反対方向のバスに乗り込んで元来た道を引き返したり、なんてことをしていたものだから、ケンウッド・ハウスに着いた頃には、お昼はとっくに過ぎていた。
 とほほ・・。
 でも、ようやくたどり着いたケンウッド・ハウスの白い建物は、なんと青い空に映えることよ・・。
 ここもロンドンなのか、と、驚かされたのは、その敷地の広さである。
 あぁ、ここら辺が、ヒュー・グラント扮するウィリアム・タッカーが、アナの言葉をヘッドホンで聞いて、ショックを受けちゃったあたりかなぁ・・と、しみじみ・・・。
 あとで購入した「地球の歩き方2002〜2003版」によると、夏の間は、ここで、毎日、コンサートが催されるのだとか・・。うーん、かなり素敵かも。


 どうやら歩けるらしい、と考え、帰りは歩いてみたのだけれど、駅まで15〜20分ぐらいでしたかねぇ・・。どうやら、駅員さんの言ったことは正しかったらしい。遠い、とか、近い、とかには、かなり主観がかかわってくる。そして、思い込みってーのもある。
 『イギリス見て歩き』でビル・ブライソンいわく、イギリスに長く住んでいると、ある特有の観念を自然に受け入れるようになるんだそうだ。その1つが、イギリスは広いと思い込み始めること。

 たとえばパブで、サリーからコーンワルまでドライブしようと思ってる、とでも言ってみるがいい。たいがいのアメリカ人なら、ちょっとそこまでタコスでも買いに行く程度の距離感覚なんだが、イギリス人はほっぺたをふくらませてお互いの顔を見合わせ、「うーん、まぁちょっとあるな」と言う。
  「ビル・ブライソンのイギリス見て歩き」(ブル・ブライソン/古川修訳。中央公論社より)

 これとは、ちょっと違うのかもしれないけど、この一件で、「人の言葉を鵜呑みにしてはいけない」と学んだ私。そして、「地図ぐらいは持って出かけろ!」、を肝に銘じたことでした。

(2002.5.9)
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やはりロンドンが好き!