「横浜に英国人墓地があるの知ってる?」、と横浜に住む同僚が言った。
墓地だけれど、1年中、バラが咲いていて、公園のような感のある場所。彼女はよくそこへ行き、読書をするのだという。
へぇ、行ってみたいなぁ・・、と思っていたのだが、ようやく暑さも和らいだこの9月の連休に、市内に住むTakiを誘って訪れてみた。
知る人ぞ知る秘境(?)らしく、最寄駅に降り立ち、駅員さんに尋ねてみたが、全然聞いたこともない様子で要領を得ない。とりあえず、バス停に行ってみて、それでもわからなかったら、交番で聞いてみよう、と行き当たりばったりのスタート。
地図で児童公園の近くにあるらしいことは調べがついていたので、児童公園行きのバスの運転手さんに、「このバスは英国人墓地に行きますか?」と尋ねたところ、「あぁ・・。たぶん・・」という頼りない返事。まぁ、なんとかなるだろう、と、バスに乗った。
終点で降りればいいのかと思い込んで、すっかりくつろいでバスに乗っていたら、途中で、運転手さんが振り返って、私たちに合図する。
「え? ここで降りるんですか?」
「ええ・・。あそこに塀が見えますよね。その塀沿いに少し行くと門がありますから」
親切な運転手さんで大助かり。着いたら教えてください、と頼んだわけでもないのに、私たちの目的地を知って、ちゃんと教えてくれたのだ。感謝、感謝。
「ありがとうございまーす!」と、ふたり声をそろえ、バスを降り、ちょっと先に見えている塀をめざした。
この墓地には、第二次世界大戦で亡くなられた英連邦、アメリカ合衆国、オランダ王国の人々が眠っている。
本当に知る人ぞ知る場所らしく、広大な敷地には、私たちよりちょっと前に墓地に入っていった夫婦と、墓地の木製のベンチに腰を掛けて、ギターを弾きながら、演奏をしている2人の若者しかいない。
入り口から右へ行く道と、石段をのぼって上がっていく道があり、私たちはまず、石段をのぼっていくことにした。
墓碑を1つひとつ見ていると、戦死した年齢は、10代から50代。10代や20代の戦没者が圧倒的に多い。主に捕虜として亡くなられた方々らしい。
まだまだやりたいことがあったんだろうなぁ・・と、思うと、なんともいえない気持ちになる。
「こんな遠くにお墓があって、家族の人はお墓参りに来れるのかなぁ」
「戦争で亡くなった人って、骨とか、何も戻ってこないことも多いだろうから、こうやって、どこで眠っているかわかっているだけでも救われるのかもしれないけどねぇ」
ひとまわりして、ベンチに腰掛けて、さぁ、一休み、と、入る前に買っておいた缶のミルクティーを飲んでいると、私たちが来たときから、ずーっと演奏を続けていた2人の演奏が聞こえてきた。
♪Don't let me down, Don't let me down...♪
あ、ビートルズだ。
「けっこううまいよね。声がいいんだよねー」、とTakiさん。
「うん。私もそう思ってたの。かなりうまいよねー」
ビートルズの曲以外、知らない曲が多かったけど、なんとも選曲がいいのである。私たちは、しばし演奏に聞きほれてしまった。
あ、「ノルウェイの森」だ。村上春樹ファンのTakiさんに合図を送る。
「ねぇ、儲かっちゃったねー」
「そうだねー」
さぁ、帰ろうか、と門に向かうころ、彼らが「上を向いて歩こう」を演奏し始めた。
九ちゃんの歌に送られちゃうなんて、素敵!
今度くるときも、彼らにいてほしいよねー。
ほーんと、ほんと。
緑でいっぱいの英国人墓地を初めて訪れ、思いがけない、貸切演奏会にすっかり満足して、墓地を後にした私たち。
後日、この話を英会話の先生、ジョンに話したら、ジョンいわく、「イギリス人には、墓地で演奏だなんて、考えられないよ」
「え? どうして?」
「だって、音楽なんか演奏したら、死んでいる人たちの眠りをさますじゃないか」
「でも、聞いたところによると、イギリスでは、墓碑の上に寝そべって、日向ぼっこをする人がいるって聞いたよー。そっちのほうが信じられないと思うけどなぁ・・」と私は応戦。
でも、確かに、言われてみれば、死者に音楽、という取り合わせはちょっと妙かも。
とはいえ、彼らの音楽は、本当に気持ちのよいものだったから、眠っている方々も、きっと、うっとり聞いてくださっていたのじゃないかしら?