松井洋子 Matsui Yoko 写真家 Photographer 松井洋子 Matsui Yoko 写真家 Photographer

son et lumiere ♯2 2007

言葉 Text
江藤 恵美子(美術史)

 写真家は光を捉える。松井洋子が写すのは、風景が内側からほのかに発する光。やさしさに包まれた、やわらかな光。自然の中の光が、四角いフレームによって区切られる。無限の広がりから取り出され、標本のようにフィルムに固定された光は、しかし今度は印画紙の上で永遠を生きはじめる。生命の気、風景に映し出される心。プリントを介して、風景に向き合う個が、別の個とつながる。時間が共有され、記憶が共有される。

 やさしさのなかのきりりとした芯の強さでもって、松井は風景を切り取る。あたたかさの領域を広めながら。しっかりと根をはった大樹の木陰に、そっとたたずむ。大地から生命の滋養を吸い取って枝葉を広げる木々。樹木を形作っているもの、木々と私たちの間を流れるものを、フレームいっぱいに充填する。そうやって彼女は方形の空間の中に、おだやかで心の落ち着く場を作り上げてきた。

 鳥取の海岸から南海の孤島へと、松井洋子の写真の旅は続く。世界自然遺産でもある屋久島のふところ深くへ、カメラを持ち、分け入る。海から島へ、陸地へと。大地をうるおす水。やわらかに全てをつつみこむ霧雨。小雨の中にすっくと立つ木々の息づかい、いぶき。水けむる静謐な空間に広がる深遠。そうして、肌をしめらす重たい空気の向こうから、やがて神秘の湿原が姿をあらわす。精霊が飛び交い、生命の満ちる園。小花之江河は、日本でもっとも南に位置する湿原だ。

 レンズを通して、音と光の営み、空気の匂い、たましいの鼓動までをも捉えてきた松井洋子が、太古の昔から生命をはぐくむ屋久島の風景に向かい合う。