ギリシア 8
白いライオンの無人島
5月14日  有志を募ってデロス島に行くことになった。遺跡だけの無人島だ。ギリシア神話では太陽神アポロンと月の女神アルティミスが生まれたところとされている。ミコノス島から連絡船が出ていて20分少々で着く。デロスと言う語源は、明るい、輝くと言った風の意味を持っているというが。

3.5平方キロしかないこの島は古代ギリシアの政治経済の中心地として長く繁栄していたらしい。日本でも同じ様な場所はあるが、紀元前の時代がそのまま取り残されている無人島なんて。デロス島には5000年前から人が住んでいたといわれている。その間、、戦いによって色々な民族が入れ替わりの歴史だったらしい。人間って昔からとことん戦いが好きなんだなあと憂鬱になる。紀元前88年、それまで支配していたイオニア人が負けて、男は皆殺し、女と子供は奴隷として連れ去られたと言う。その時から人が住まなくなっているなんて信じられないような島だ。時が止まった島に観光客は降り立つ。2100年前の何か意味不明の文字が書かれた太い大理石の円柱や、崩れた白い礎石、当時の繁栄を思わせて、堂々と大きい。島中いたるところに転がっている。
人の手が加えられるでもなく、島中を覆い尽くしている、人間の営みの痕跡。茫々とした野の花々がそれらを包み隠す。
紀元前、七世紀に創られた白いライオンが5頭、小高い丘の上で海から来る侵略者たちを見張っている。毅然としてと言いたいところだが、風化が進んで原型を留めるすべも無く崩れが目立っている。ライオンの後ろの丘を上る。なんとそこは海まで続く一面のスターチスの群落だった。
石組みの崩れた痕跡を覆い隠して咲く、紫色の花の向こうはコバルトブルーのエーゲ海が何事もなかったように茫洋と広がっているのだった。造り、争い、破壊し、殺しあわなければ済まない人間。束の間の時を生きながら、人間というのは、いったい何とおろかな哀しい存在なんだろう。スケッチの手を止めてそんなことを考えさせられる島だった。