本読みホームページ








小沼丹アニメ化






今さらいうまでもないことだが、
「アニメ流行り」
である。
このサイトは、本と活字が好きで好きでたまらぬ、はあはあ、もうダメ、という人のためのものであるから詳細は省くが、とにかくもう、すごいことになっている。
「ジャパニメーションが世界を席巻!」
「アニメをはじめとする日本のポップカルチャーは、日本のコンテンツ産業の中核に!」
「アニメ作家をアニメ文化大使にして世界中に派遣!」
なのだそうで、このアニメ文化大使の案なんかはホントにすごいのか、あるいは単にからかってるだけなのか、これまでもあったような、
「ウルトラマンが消防署の一日署長に就任」
などというのとどう違うのか、正直いってよくわからないのだけれど、とにかくそんなわけで最近は、猫も杓子もアニメなのである。
というと、
「最近は猫も杓子も、というけどね、キミ、ドラえもんやらスプーンおばさんやら、猫だって杓子だって、もう20年以上前からアニメになっているんだけどね」
などと、細かい人からマニアックな指摘を受けそうなので、うかつなことはいえないのだが、とにかく、時代は今アニメ、であることには間違いないのである。

このサイトは、本と活字が好きで好きでたまらぬ、はあはあ、もうダメ、という人のためのものであるから、だからといって別にどうというわけではない。「本読みHP」は今週でおしまいにして、来週からは「アニメ見HP」にします、ということにはならない。
とはいえ、この風潮に便乗しない手はない。
せっかくだから、どさくさに紛れて、文学作品をアニメ化してしまおうではないか。
もちろん、「赤毛のアン」やら「小公女」やらの海外少女小説ではなく、日本の文学作品を、である。そしてもちろん、単発ものではなく、少なくとも1クール、30分×13話のTVアニメに、である。
世界を席巻しているジャパニメーションの波に乗せて、日本の文学作品も、世界に向けて大いに喧伝してしまうのだ。

では、どんな作品をアニメ化すればいいのか。
石田衣良やら舞城王太郎やら、何となくアニメになってもよさそうな作家はいっぱいいる、と思った人は、甘い。机上の空論、といわざるをえない。
単にアニメにすればいい、というものではないのだ。大切なのは、ほかでもない、
「萌え」
なのである。石田衣良や舞城王太郎の何に萌えられるというのだ(注1)。視聴者は石田ファン、舞城ファンとは限らない。むしろターゲットとすべきは、
「最近は猫も杓子も、というけどね、キミ、ドラえもんやらスプーンおばさんやら、猫だって杓子だって、もう20年以上前からアニメになっているんだけどね」
などと指摘するようなマニアックな人たちなのである。そんな彼らをして、思わず、
「むふう」
と興奮せしめるような、そんな萌え作品に仕上がらないかぎり、真のアニメ化とはいえないのである。

となると、いったい誰の作品がアニメ化にふさわしいのか。漱石か谷崎か、志賀か鏡花か犀星か。あるいは山田詠美か、大西巨人か。
いや、違う。
その誰でもない。
たしかに、これらの作家たちの作品の中には、かなりの萌え作品が含まれている。
「『外科室』の貴船伯爵夫人たまらん!!」
「『海城発電』の李花タン萌え〜!!」
「ツンデレ春琴タン萌え〜」
「『卍』の光子タンハァハァ」
「いや、『卍』だったら園子タソでしょ」
などと興奮している人は、数多いであろう。
あるいは、
「尾崎一雄の芳兵衛タン最強!!!」
といった意見も、あるかもしれない。
だが、繰り返すが、われわれが意図しているのは単発のアニメではないのだ。30分×13話のTVアニメなのだ。全編萌えられる長大な1作品を13回に分割するか、そうでなければ、何を書いても萌えな作家の作品の中から13回分(あるいはそれ以上)を抽出して13話を構成するか、ふたつにひとつなのである。どれほどの萌えキャラが登場する作品だろうと、ふつうの長さの長編1作品だけでは、不十分だ。
大西巨人の『神聖喜劇』を全編アニメ化、といった案には多少そそられないでもないが(注2)、ここで強く薦めたいのは、ズバリ、この人である。
ジャジャーン!
小沼丹。

というと、
「‥‥へっ?」
と思う人が、ほとんどなのではないか。
「中国出身の作家ですか? ショウ・ショウタン?」
えーと、簡単に説明しておくと、ショウ・ショウタンではなく、オヌマ・タン、である。東京生まれの日本人作家である。1918〜1996。井伏鱒二に師事。文学史的にいうと、安岡章太郎やら庄野潤三やらと同じく「第三の新人」。作風は、ひとことでいえば、「通好み、渋好み」。独特の諧謔と静かな自己観察がゆるやかに結びついた、地味に見えて実に洗練された、いぶし銀に光る文章は、いつ読み返しても豊かな味わい。母校・早稲田の教壇に立ちながら、半ば余技として生みだしていった作品は、読売文学賞を受賞した『懐中時計』をはじめ、平林たい子賞受賞のロンドン滞在記『椋鳥日記』、身辺を題材にした『珈琲挽き』『小さな手袋』など、あれこれ。近年、北村薫によって『黒いハンカチ』が再評価され、一部のミステリファンには名前が知られるようになった。

という、そんな小沼丹ではあるのだが、しかし、いったいその何が萌えなのか。
彼の作品のどこにも、「萌え」を誘発しそうなキーワード、たとえば、
「猫耳」
「メイド」
「巨乳」
「魔法少女」
「ロリ」
といった言葉は出てこない(注3)。では、どうやって「萌え」になるのだ、
「最近は猫も杓子も、というけどね、キミ、ドラえもんやらスプーンおばさんやら、猫だって杓子だって、もう20年以上前からアニメになっているんだけどね」
と指摘するようなマニアックな人を満足させることなど、不可能ではないのか。

と思うかもしれないが、いや、まあ、聞きなさい。
勘のいいかたなら、その名前を聞いた瞬間に、すでにピンときているのではあるまいか。
小沼丹が「萌え」な理由、そしてアニメ化にぴったりである理由とは‥‥。
ズバリ!
そう、その名前なのである。
小沼丹。
もう一度いおう。
小沼丹。
おぬまたん。
おぬまタン。(おぬまタンの「お」にアクセントである。)
なんだかよくわかんないけど、「萌え〜」感が漂ってこないだろうか。
「おぬまタン14歳、中学2年生!」
という気にはならないか。
「お」「ぬ」「ま」のなんとなく丸っこいところも、「さん」や「ちゃん」でなく「タン」であるところも、かわいらしいヒロインの名前として、いかにも似つかわしい。あらためて眺めてみると、これはもう、アニメになるべくして付けられたペンネーム、としかいいようがない。
(ここで、いや、違う、おぬまタンは14歳なんかじゃない、「おぬまタン10歳、小学4年生」だ!という人がいるかもしれないが、こういうことで議論を始めるとアニメ化以前に計画が頓挫しかねないので、とりあえずは14歳で中学2年生ということで、納得してもらいたい。アニメ化プロジェクトが本格的に始動したら、そのあたりの設定については、あらためて検討しようではないか。)

で、その萌えキャラ「おぬまタン14歳」を主人公に据えるとして、ほかはどうするのか。ちゃんとアニメ作品に仕上がるのか。
キャラクターは?
舞台設定は?
ストーリーは?
‥‥。
えーと‥‥。
と思うかもしれないが、いや、大丈夫である。まかせておきなさい。
「おぬまタン14歳、中学2年生」
このキャラだけで、十分、やっていける。
ヒロインにあわせて、ほかの登場キャラの設定だけうまく調整すれば、なんとかなる。ストーリーは、随筆や短編小説をちょっとアレンジするだけでいい。なんだか、ゆるゆるとした、いい作品になりそうだ。
コンセプトはズバリ、
「癒し系学園コメディ」
である。
キャラクターは、萌えキャラがおぬまタンだけではつまらないので、タイプの異なった同級生の女の子を2、3人つけ足そう。少なくとも、メガネっ娘は必須だ。
中学2年生だけではカバー範囲が限定的すぎるので、脇役に女教師と小学生の妹か何かを配置。
随筆と短編がほとんどの小沼丹だから、全編通しての大河的なストーリーはなく、日常のちょっとした出来事をゆるくつないで、各回1話完結。
それだけではメリハリに乏しいので、毎回1度くらい、ちょっとエッチなシーンあり。
まとめると、こうなる。
「のんびり屋さんで風変わりな女の子おぬまタンを中心とする女子中学生仲良し3人組の普通の日常を、まったり、ゆる〜く描き出す、ちょっとエッチなほのぼの学園コメディ」
どこかで聞いたことがあるような設定だが、いいのだ。萌え〜なのだ。

タイトルについては、名前だけをシンプルに、
「おぬまタン」
とするのが、「ドラえもん」や「サザエさん」のようで好みなのだが、それでは、
「最近は猫も杓子も、というけどね、キミ、ドラえもんやらスプーンおばさんやら、猫だって杓子だって、もう20年以上前からアニメになっているんだけどね」
というマニアックな人の許可が下りないかもしれぬ。以下のような感じにしたほうがいいのだろうか。
「おぬまタンSOS!」
「Heart Beat おぬまタン」
「スキップ!おぬまタン」
「おぬまタン★ゆるゆる」
‥‥うーむ、われながら、センスが古いぞ。いずれアニメ化が正式に決定したあかつきには、あらためて慎重に討議することにしたい。

さて、以下は、この「おぬまタン」の具体的なキャラクター設定およびストーリー展開例である。
これなら、
「最近は猫も杓子も、というけどね、キミ、ドラえもんやらスプーンおばさんやら、猫だって杓子だって、もう20年以上前からアニメになっているんだけどね」
などというマニアックな人も、思わず目を細め、のどを鳴らし、
「むほ〜」
と鼻息を荒げるのではないか。
元ネタが小沼丹という、微妙にマイナーな作家であるところも、マニア心をくすぐるはずだ。アニメ化が成功すれば、2ちゃんねるにも、
「おぬまタソを熱く語るスレ」
などができるはずである。(とかいいつつ、まったくまとはずれだったら、ごめんなさい。)

*          *          *

《主要登場人物》

おぬまタン(本名・小沼丹)(注4)
A女学院中等部に通う中学2年生。のんびり屋さんのように見えて、意外に冷徹な観察おぬまタン眼を持つ、ちょっと変わった女の子。身の回りのさまざまな出来事に対して、無邪気な顔をしながら、心の中でひそかに黒いツッコミを入れている。趣味は昼寝。幼児体形なのが、ひそかな悩み。

いぶッチ(本名・井伏ますみ)
おぬまタンのいちばんの親友。メガネっ娘。アウトドア派で、趣味は釣り。案外しっかり者で、面倒見がいい。仲良しグループの中では、いつもお姉さん役。でもって、ナイスバディ。なのに狭いところに入り込むのが好きで、ときどき胸やお尻がつかえて出られなくなる。

庄ちゃん(本名・庄野潤子)
丘の上の家に住んでいる。趣味は、ハーモニカと宝塚歌劇鑑賞、庭の小鳥にえさをやること。良家のお嬢さんで、何かにつけて「ありがとう」「うれしい」と礼儀正しい。天然系の、その純粋すぎる性格のせいで、思いがけない誤解やハプニングを招くことも‥‥!?

ニシ先生
A女学院の可憐な女教師。小柄で愛嬌のある顔立ちをしている。ときどき赤い縁のロイド眼鏡をかけて、快刀乱麻を断つがごとき推理を披露する。趣味は昼寝と絵を描くこと。百人一首も得意。

フーちゃん
庄ちゃんの妹。小学校2年生。庄ちゃんになついていて、庄ちゃんのいうことはなんでもきく。


《ストーリー展開案》(注5)

第1話
「狆(ちん)の二日酔ひ 〜女だらけのドキドキ★パーティ〜」

おぬまタン・いぶッチ・庄ちゃんの仲良し3人組が、丘の上の庄ちゃん宅に集まって1泊の強化合宿を開催(何を強化するのか不明だが)。庄ちゃんのペットの狆(おぬまタンが「狆でしょ」というと、庄ちゃんは「ううん、ペキニーズ」というのだけど)は、どうやらお酒に弱いらしく、おぬまタンが奈良漬を食べさせると酔っ払ってしまった。その狆と同じくらい、いぶッチもお酒に弱かったようで、奈良漬ひとつで酔っ払い、おぬまタンたちにさんざんからんだ挙句、服を脱ぎ出して‥‥!

第2話
「眼鏡 〜今日からおぬまタンもメガネっ娘!?〜」

最近、座ったり、ごろんと寝転んだりした拍子に、視界がくるくるして、ぽわ〜っとなってしまうおぬまタン。健康には無頓着な性格ゆえに、しばらく放っておいたのだけれど、いぶッチに話したところ、「目が悪くなってるんじゃないの?」。眼科に行ってみると、はたして、乱視になってることが判明。ついにおぬまタンも、メガネっ娘デビュー! と、いぶッチと庄ちゃんは色めき立ったのだが‥‥。

第3話
「黒いハンカチ 〜今日の主役はニシ先生!〜」

おぬまタンたちが英語の小テストに頭を悩ませている最中、黒板の前に座った英語教師のニシ先生は、こっそりクロスワードパズル解きに頭を悩ませていた。答えの単語を探しあぐねて、ふと窓の外に目をやると、校舎の方へと歩いてくる見知らぬ男女に気がつく。その2人、実は‥‥。学園の名探偵ニシ先生の鋭い推理が閃く!

第4話
「蝉の脱殻 〜ガールズ・トーク@ホスピタル!〜」

待ちに待ってた夏休み! 庭で拾った蝉の抜け殻を壁に並べて貼り付けたりして、のんびり過ごしているおぬまタン。一方、いぶッチは、せっかくの夏休みなのに病気で入院! とはいえ、たいした症状ではなく、暇を持て余した挙げ句、持ち前のリーダーシップを発揮して、入院患者の同年代の女の子たちを集めて「屋上クラブ」なるサークルを結成。女の子だけのちょっとエッチな話で盛り上がって楽しんでいる。そのサークルに入ってみたくなったおぬまタンは‥‥。

*          *          *

これが実際にアニメ化されて、木曜日の深夜1時半くらいに放送されて、それなりに人気が出て、
「最近は猫も杓子も、というけどね、キミ、ドラえもんやらスプーンおばさんやら、猫だって杓子だって、もう20年以上前からアニメになっているんだけどね」
というようなマニアックな人たちにも評価され、2ちゃんねるの一般書籍板の「おぬまタソ萌えスレ」は、
「おぬまタソ.*:.。.:*・゚(*´∀`).*:.。.:*・゚ 」
「いぶッチと一緒に穴に入りたいお (*´Д`*)ノ ハァハァ」
「フーちゃんヤバカワイイ (*´∀`)σ)゚ -゚) プニプニ…」
などと活況を呈し、コミケではいやらしい同人誌が出回って、おぬまタンと庄ちゃんが「そんな、ダメ、庄ちゃん‥‥、アッ」ということになった場合(あるいは、さらに、いぶッチも加わって、「え、そんな、いぶッチったら、やだ‥‥」ということになった場合)を想像してみると‥‥。

以前からの小沼丹ファンとしては、
「あの小沼丹と庄野潤三が(しかも井伏鱒二が)‥‥」
と、なんとも複雑です。





(注1)
もしかしたら、「石田衣良の○○に出てくる××には、萌え萌え萌え〜」「舞城王太郎、萌えすぎ、憤死!」という人がけっこういるのかもしれませんが、どちらもほとんど読んだことのない私には、なんとも判断しかねます。石田衣良や舞城王太郎がおぬまタンより萌える場合は、先にそちらの方をアニメ化してもかまいません。

(注2)
ただし、アニメ化にあたっては、主人公以下キャラクターすべてを十代の女の子にする必要があるでしょう。「東堂みさお16歳、陸軍二等兵であります〜。キャッ」とかいって。軍隊(しかも旧日本陸軍)で女子となると、好きな人にはもうたまらぬ設定ではないか。どうせアニメ化するのなら、1クールではぜんぜん収まりきらないだるうから、1年かけて、全52話くらいのものにしてほしい。

(注3)
ちなみに、「眼鏡」は出てくる。軽妙なタッチの連作推理小説『黒いハンカチ』で探偵役のニシ・アズマ女史は、女子校の女教師であるうえに、推理を披露するときには赤縁の眼鏡をかけるという、ある意味、かなりの萌え設定。しかし、だからといってニシ・アズマ女史を主人公にして、この『黒いハンカチ』をそのままアニメ化してしまっては、つまらない。

(注4)
セル画風のアニメ絵に初めて挑戦してみました。案外難しいものですね(仕上げてから気づいたんだけど、輪郭線をもっと細くしないといけなかった)。ペンタブレットがほしくなりました。
どこかで見たことがあるようなないような、という感じで描いてみましたが、「なんじゃこりゃ! こんなんじゃ、ちーっとも、萌えん!」とお怒りのかたがいましたら、ごめんなさい。

(注5)
いちおう、それぞれの作品が所収されている本(主なもの)を記しておくと、「狆の二日酔ひ」は『珈琲挽き』(みすず書房)、「眼鏡」と「蝉の脱殻」は、大寺さんという人物を主人公に据えた連作小説『黒と白の猫』(未知谷)、「黒いハンカチ」は同名の『黒いハンカチ』(創元推理文庫)。
[2006.5.22]
トビラページに戻る 読みもの目次ページに戻る
top back