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新潮文庫の100冊を選び直す






「新潮文庫の100冊」。
今や、夏の風物詩となっている新潮社のキャンペーンである。季節感のない都会においては、これのポスターを見て、
「ああ、もう夏か」
と、夏の到来を知るという読書人も多いという。
実はそれなりにけっこう歴史のあるキャンペーンで、第1回は1976年というから、今年でかれこれ28年目になる。以前は「拳骨で読め。乳房で読め。」「パンツいっちょで、文学三昧」などと、冷静になって考えてみるとなんだかよくわからないコピーとともに、緒方拳やら永瀬正敏やらが文庫本を手にしていたけれど、97年にYonda?のパンダが登場した後はそれがすっかり居着いてしまい、今年はパンダも2代目である。そろそろパンダも飽きてきたのだが、しかしYonda?にうまく呼応する事物を考えてみると、ほかには、
「Yonda?アナコンダ」
「Yonda?ウガンダ」
「Yonda?プロパガンダ」
「Yonda?ベラドンナ」
などと意味不明なものばかりなので、しかたがない。
ともあれ、たとえキャラクターグッズが目的であるにせよ、それによって1冊でも多くの本が読まれるのなら、本にとっても人にとっても、よいことだと思う。
が、それはそれとして。
不満なのである。憤懣やる方ない。
毎年、本屋さんで小冊子をもらってくるのだけれど、パラパラめくって最初に思うのが、
「なんじゃ、こりゃ」
なのである。
「このラインナップは、何なのだ」
いかにももっともらしいだけの「名作」セレクションに、流行におもねった現代作家のチョイス。今年でいえば、
「なんで江國香織が4冊も入ってるんじゃ」
「ぎゃっ、宮部みゆきも4冊」
「真保裕一の『奇跡の人』と天童荒太の『孤独の歌声』って、あのね、感動モノを入れればいいってもんじゃないのよ」
と、こういうことになるわけで、とかく不満がたまるばかり。
ようするに、哲学というか大義名分というか、何でこの100冊が選ばれてるのか、それがちっとも伝わってこない。そもそも、夏なんだから、夏のキャンペーンなんだから、夏に読むべき、夏休みにこそ読んでみたい作品を揃えるべきではないのか。
それができないっていうんなら、エエイ、どけどけ、すっこんでろ、わしが選んでやるわいっ!

というのが今回の企画。鼻息荒く腕まくりして選び直したのが、以下の100冊である。誰もが納得、首肯すること間違いないであろう。変化球、クセ球いっさいナシ、ど真ん中直球勝負で選んだので、申し訳ないことにオチもヒネリもないただのリストなのだが、まあヒマがあったらチラチラ目を通してもらいたい。(注)

典拠としたのは、2003年4月の新潮文庫解説目録。本当はこの中から、1作者1作品で選びたかったんだけど、それでは50冊くらいにしかならなかったので、1作者につき2点まで、カタログ落ちのもの(×印をつけてあります。一応、まだ新刊書店でも見つけられると思うけどね。っていうか、こんなおもしろい作品を品切れにするなんて、エエイ、本の神様の罰が当たってしまえ)も5点まで可、という勝手なルールをつくったうえで選びました。


(1)まずはズバリ、読書感想文のためのスタンダード! これを読んでさっさと宿題を片付けよう。

■雪国(川端康成)
最初の一行の後も、読んでみましょう。
■変身(カフカ)
毒虫ではなくて、ハムスターやかわいいワンたんに変身していたとしたら、どうなっていたか、考えて感想文に書いてみましょう。
■走れメロス(太宰治)
「太宰における笑いについて」というタイトルで、感想文を書いてみましょう。
■羅生門・鼻(芥川龍之介)
今昔物語の話にちょっと手を加えただけのように見える作品が、なぜ文学になっているのか考えて、感想文を書いてみましょう。
■奉教人の死(芥川龍之介)
キリシタンものの短編集。ということで、カルトやらイスラム原理主義やら、ホットな話題である「宗教」を絡めつつ、感想文を書いてみましょう。
■山椒大夫・高瀬舟(森鴎外)
安楽死問題と絡めて論じられることの多い「高瀬舟」。でも、単に安楽死を結びつけて、人の命の大切さがどうのこうの、などと書いては芸がありません。物語の前半は、弟を安楽死させた喜助が、いかに無慾な男であったか、というエピソード。作者が「安楽死させることができる人のあるべき姿」を措定しているように見えます。そのあたりを批判しつつ、感想文にまとめてみましょう。
■坊っちゃん(夏目漱石)
教科書でしか読んだことのない人へ。この作品の主題は、「主人公と清との愛情」なんかではありません。「不浄の地・松山に対する悪口」です。
■藤十郎の恋(菊池寛)
「形」「極楽」なんかも、短くていいですよ。
■小僧の神様・城の崎にて(志賀直哉)
志賀直哉の短編で読書感想文って、上級者向けかも。「赤西蠣太」とか、菊池寛みたいでおもしろいんだけど、感想文向きじゃないしなあ。
■李陵・山月記(中島敦)
「李陵」と「山月記」の間に挟まっている「名人伝」もわりと好き。“無射の射”だなんて、むちゃくちゃだよね。「名人伝を読んで感動しました。僕もこの作品にならって、読書感想文も『無書の書』でいきたいと思います。以上、終わり」という感想文を出してみてはどうでしょうか。

(2)夏は熱いぜ!恋だぜ!愛だぜ!終業式以来会っていない、アコガレのタカハシさんに、思い切って電話しちゃおうかどうしようか、と逡巡しているウブウブっ子なあなたに。

■うたかた/サンクチュアリ(吉本ばなな)
少女マンガを朗読すると、こんな感じだと思います。
■抱擁(I・II)(A・S・バイアット)
徐々に解き明かされる過去の恋愛、ゆっくり進展していく現在の恋愛。ああ、前から後ろから攻められて、もうあたしあたし‥‥。
■スキップ(北村薫)
あざといといわれようが何だろうが、いいんです。作者がオッサンだろうと、いいんです。
■ハイ・フィデリティ(ニック・ホーンビィ)
恋愛よりも中古レコードのコレクションの方が大切です、というオタクなあなたにだって、ちゃんと幸せが訪れる、こともあるんです。
×■光琳の櫛(芝木好子)
オマケやら切手やら模型やら岩石やら古銭やら蕎麦猪口やらちびた鉛筆やらエッチな画像やら、とかくモノを集めたがるのは男の領分といわれますが、こんな女の人もおります。コレクターの愛。
×■オリンポスの果実(田中英光)
あんだけさんざん引っ張り回しておいて、末尾、「あなたは、いったい、ぼくが好きだったのでしょうか。」って何だよ。
■お目出たき人(武者小路実篤)
ストーカー、ばんざーい!
■山の音(川端康成)
中高生男子などが読むと、「よーし、僕も早くオトナになって、結婚して、息子をつくって、その息子が結婚して、その嫁がちょっと自分の好みで、そのうち息子が浮気して、息子と嫁の間が冷めて、夜がちょっと寂しくなって、舅である自分のことが気になってきちゃう、ということになるように、がんばるぞー」と、将来に希望が出てきます。
■春琴抄(谷崎潤一郎)
春琴の顔面火傷事件は、自作自演なのか、どうなのか。狂おしいまでに深い愛欲を行間から読み取るべし。
■知と愛(ヘッセ)
ああ、ママン。ゴルトムントの最期の言葉が素敵です。「けれどナルチス、君は母を持たないとしたら、いつかいったいどうして死ぬのだろう。母がなければ、愛することはできない。母がなければ、死ぬこともできない」。‥‥ナルチスの心は、火のように燃えた。
■嵐が丘(エミリー・ブロンテ)
恋愛小説は、固有名詞も大切です。これがヒースクリフじゃなくてジャックやマイケルだったら、たぶんダメだったと思います。
■ロミオとジュリエット(シェイクスピア)
ジュリエットは14歳です。400年前ですら、こんなにススんでいたんだから、今の退廃ニッポンなら、もう、すごいことになってますよ。「うちのコはまだまだ子どもだから‥‥」なんて思ってると、とんでもないことになりますよ。ほら、夏休みだし。お宅のユカリちゃんとか、だいじょうぶですか。
■自負と偏見(オースティン)
元祖昼メロ。冒頭の一行、「独りもので、金があるといえば、あとはきっと細君をほしがっているにちがいない、というのが、世間一般のいわば公認真理といってもよい」って、いや、そんなことないでしょ。

(3)夏は旅だぜ、旅行だぜ!でもお金もヒマもありません、というガッカリなときには、気分だけでも旅気分に。夢は野山を駆けめぐり。

■深夜特急(1〜6)(沢木耕太郎)
全6冊。第1巻をもって一人旅に出て、旅先で1冊ずつ買い足していく、というのがおすすめの読み方です。
×■日本海のイカ(足立倫行)
ズバリ、日本海のイカ。何という素朴さ!なのに、何というインパクト! こんなに飾り気がなくて、しかも印象的なタイトルは、めったにあるもんじゃありません。まさに、無為の為、無策の策。タイトルだけで、メロメロです。あ、もちろん、中身もいいです。タイトルどおり、飾らないし。足立倫行のルポって、沢木耕太郎より十倍くらい好き。
×■人、旅に暮らす(足立倫行)
競輪選手や錦鯉の問屋さんから国会議員秘書、ラブホテル専門のベッドメーカーまで、旅から旅へと全国を渡り歩く12人の男たちの姿を素朴な視線で見つめたルポ。ルポタージュというものは、こうでなくっちゃ。
「‥‥でもね、どんなに頑丈に作っても、まず三年もてばいい方ですね。固い固いスプリングが、三年後に取り出してみるとペシャンコになってますよ。家庭用のベッドなら半年ともたないでしょうね。あの力の激しさといったら、そりゃ凄いもんです」橋場は、日本人の性行為の激しさを、自分の功績のように誇らし気に語った。
■アフリカポレポレ(岩合日出子)
動物写真家・岩合光昭の奥さんが、娘を連れて夫のアフリカ取材に同行した1年半をつづった記録。4歳の薫ちゃんの言葉は、母親の、そして読者の思惑を超えて、あまりに無心。たとえば、1頭のハイエナが、ヌーの子供を引き倒して食べるのを目撃して。
「食べられたヌーの子供が、かわいそうだとは思わないの?」
「かわいそうだよ。ほんとうに、かわいそうだと思う。だから見ているの」
■途中下車の旅(宮脇俊三)
テツも極めれば、人々に楽しみを与えることができます。著者は故人。テツの中のテツ、巨鉄といわれています。彼の名を知らない鉄道ファンは、いません。逆に、彼の名前を知っているあなたは、ちょっと危ないかも。
■第一阿房列車(内田百閨j
表紙の百關謳カの顔があまりに怖いので笑えます。
■火宅の人(壇一雄)
火宅、とかいいつつ、旅小説だと思う。女から女へ。女から逃れて他の女のもとへ‥‥。でも、哀しいのね。
■津軽(太宰治)
「育ての親」である「たけ」と再会した最後の2ページが、たまりません。「手にしてゐる桜の小枝の花を夢中で、むしり取つては捨て、むしり取つては捨て」ながらの、たけの告白。
「三十年ちかく、たけはお前に逢ひたくて、逢へるかな、逢へないかな、とそればかり考へて暮してゐたのを、こんなにちやんと大人になつて、たけを見たくて、はるばると小泊までたづねて来てくれたかと思ふと、ありがたいのだか、うれしいのだか、かなしいのだか、そんな事は、どうでもいいぢや、まあ、よく来たなあ、お前の家に奉公に行つた時には、お前は、ぱたぱた歩いてはころび、ぱたぱた歩いてはころび、まだよく歩けなくて、ごはんの時には茶碗を持つてあちこち歩きまはつて、庫(くら)の石段の下でごはんを食べるのが一ばん好きで、たけに昔噺(むがしこ)語らせて、たけの顔をとつくと見ながら一匙づつ養はせて、手かずもかかつたが、愛(め)ごくてなう、それがこんなにおとなになつて、みな夢のやうだ。‥‥」
■日本の川を旅する(野田知佑)
ようし、カヌーやるぞう、カヌーかついで、日本の川を旅するぞう、という気分になります。ちなみに、ファルトボート(折り畳み式のカヌー)は、20万円くらいします。私はカタログを見てたしかめてガッカリしました。
■フィッシュ・オン(開高健)
とりあえず、釣り竿を買いに行きたくなります。カヌーよりはよほどお手軽です。
■カッパがのぞいたヨーロッパ(妹尾河童)
間取りファンにおすすめ。
■たった一人の生還―「たか号」漂流二十七日間の闘い(佐野三治)
こんな一人旅はヤダ。

(4)夏はホラーだ怪談だ!夏の定番はやっぱり納涼コワものだぜ!これを読んでちょっと涼しくなろう。

■百物語(杉浦日向子)
マンガです。なんだかむやみと不条理なあたりが、怖い。お化けが出るのに理由なんか、いりません。
■殺人鬼(綾辻行人)
とにかく血みどろぐちゃめちゃで、私なんかは気分が悪くなっちゃってダメです。
■懲戒の部屋―自選ホラー傑作集1(筒井康隆)
子どもの頃読んだジュブナイルの『緑魔の町』以来、筒井康隆の怖い話は、たいそう怖いと思っています。
■ねじの回転(ヘンリー・ジェイムズ)
最初に出てくるだけの2人の男が何者なのか、どうしても気になります。ああ、謎が謎を呼ぶ。
■砂の女(安部公房)
B級ホラー物として映画化されたとしたら、タイトルは「恐怖のビーチギャル」になると思います。サブタイトルは「砂まみれの愛」です。
×■生存者(P・P・リード)
冬のアンデス山中に飛行機が墜落。生き残った者たちにとって、食料となるのは仲間の死体‥‥、という実話。同じ事件を扱ったものが、ハヤカワNF文庫から『アンデスの聖餐』というタイトルで、昔出てましたけど、本書の方が読み物仕立てでおもしろいです。
■ひかりごけ(武田泰淳)
やっぱりね、人間食べちゃうのって、こわいよ。
■冷血(カポーティ)
結局、いちばん怖いのは人間だ、とつくづく思います。
■江戸川乱歩傑作選(江戸川乱歩)
実際、怖いか、というと、まあそんなに怖いわけではないんだけど、暑さでポーッとなった頭で読むと、現実とうつつの境があいまいになって、いっそう楽しめると思います。
■謎のギャラリー―こわい部屋(北村薫・編))
こういうアンソロジーを編んでみたい、と憧れます。

(5)ああ夏だ熱いぜ体が燃える、思わずカーッとなっちゃうぜ!体の中から熱くなって、夏の暑さをふっとばせ!

■ホワイトアウト(真保裕一)
極寒の冬山が舞台。なので、ちょっと涼しくなるかというと、とんでもない。体の奥から、カーッと燃えてしまいます。
■影武者徳川家康(上・中・下)(隆慶一郎)
漫画化された少年ジャンプの連載は途中で終わっちゃったんだよね。主人公が冒頭でいきなり60歳近い、ということには目をつぶりましょう。島左近かっこええよう。
■燃えよ剣(上・下)(司馬遼太郎)
ウブウブな乙女のあなたも、これを読んだ瞬間から、熱い熱い幕末ファン。
■項羽と劉邦(上・下)(司馬遼太郎)
項羽って、かっこいいよね。
■晏子(1〜4)(宮城谷昌光)
「漢」と書いて「おとこ」と読め! 燃えるぜ!
■墨攻(酒見賢一)
墨守じゃなくて、墨攻。世界史ででてくる墨家は、専守防衛のプロフェッショナル戦闘集団だった!という話で、百数十ページしかないのに、燃えます。
■後宮小説(酒見賢一)
乙女だって、燃えちゃうんです。クールな江葉ちゃんに一目惚れ。
■鋼鉄の騎士(上・下)(藤田宜永)
タイトルだけ見ると「ファイブスター物語」みたいですが、レースでスパイでナチスで戦争で情熱で陰謀で恋で冒険なんです。特厚の上下2巻であわせて1500ページくらいあるけど、一気。
■梶原一騎伝(斎藤貴男)
タイガーマスクや巨人の星の原作者なのだけど、この人が自分で自伝を書いてそれが漫画化されていたら、たぶんタイガーマスクや巨人の星と同じくらい壮絶だったと思う。
■剣客商売(池波正太郎)
老武芸者・秋山小兵衛に惚れるもよし、息子・大二郎の颯爽とした剣技にうっとりするもよし、ボーイッシュな佐々木美冬に見とれるもよし、おはるのむっちりとした肢体にクラクラするもよし。
■哀愁の町に霧が降るのだ(上・下)(椎名誠)
いやはや、これが青春なのだ。これを読んで「男の子って、やっぱり、いいなあ。あたしも、男に生まれてくればよかった」と思わない女子はいません。

(6)涙流して目が真っ赤になっても、大丈夫、明日も休みです。

■閉鎖病棟(箒木蓬生)
もうダメ。わかってるんだけど、涙があふれるんです。
■町奉行日記(山本周五郎)
武家物から市井物まで10編を収録した好短編集。「寒橋」に、泣きました。
■いまひとたびの(志水辰夫)
少々あざとい感じもいたしますが、最初から泣くつもりで読みましょう。浅田次郎の『鉄道員』よりは、ちゃんと泣けると思います。

(7)せっかくの長い夏休みなんだから、思い切ってあの大作、大長編に挑戦!

■悪霊(上・下)(ドストエフスキー)
上下2冊、約1100ページ。ドストエフスキーの中ではいちばん波乱万丈で、あんまり難しいこと考えなくても楽しめると思います。ニコライとピョートルの間に通う、微妙にいや〜んな関係に注目。
■デイヴィッド・コパフィールド(1〜4)(ディケンズ)
脇役のミコーバー氏がいい味を出しています。読み終わるころには「待てば海路の日和あり」が口癖になっているはず。吉川英治『新・平家物語』の麻鳥さんもそうだけど、大長編にはこういう味のある脇役がいると、読むのに熱が入ります。
■ローマ人の物語(1〜7)(塩野七生)
ちょっと勉強するつもりで「あー、元老院とかコンスルとか、あったあった」などと世界史の授業を思い出しつつ読んでいるうちに、いつしか興奮して、わけわかんなくなります。
■怒りの葡萄(上・下)(スタインベック)
タイトルからは想像できませんが、硬派骨太、いかにもアメリカ中西部!という感じのロードノベルです。『ランボー 怒りの脱出』とも『一房の葡萄』とも、あまり関係ありません。
■ガープの世界(上・下)(アーヴィング)
元・花形フットボーラーにして性転換した女性運動家ロバータ・マルドゥーンのキャラに注目。
■パルムの僧院(上・下)(スタンダール)
サンセヴェリナ公爵夫人、たまりません。「‥‥彼女はただ偶然に行動した。その瞬間瞬間に楽しむことを考えてやった。が、たとえどんな行動にひきずられる結果になったとしても、あくまで断乎としてやりとげただろう。冷静にかえった彼女は少しも自分をとがめる気にならなかった。彼女が三十六になっても宮廷第一の美女でありえたのも、こういう性格にもとづくのだ。」
■人間の絆(1〜4)(モーム)
フィリップって、ちょっとかわいいと思う。ショタなあなたにおすすめ。
■風とともに去りぬ(1〜5)(ミッチェル)
ヒロインのスカーレット・オハラさんは、日系二世とかではありません。
■レ・ミゼラブル(1〜5)(ユーゴー)
途中に出てくる、パリの下水道についての蘊蓄は、飛ばしちゃってかまいません。
■夜明け前(1〜4)(島崎藤村)
白状すると、中学生のときの夏休みに挑戦して、挫折しました。
■戦争と平和(1〜4)(トルストイ)
完読できたら、みんなに自慢しましょう。

(8)ほかにこれといってやることのない夏休みなんだし、ふだんは考えないようなちょっと難しいことを考えてもいいんじゃないの。

■こころ(夏目漱石)
秦恒平『名作の戯れ―「春琴抄」「こころ」の真実』によると、先生の奥さんは今は「私」の妻になっている!? なかばミステリとして味わってください。
■城(カフカ)
怖じ気づいてなかなか手に取れないでいる人は、諸星大二郎の近未来物マンガでウォーミングアップしてからチャレンジしてみては。物語としては、『変身』よりおもしろいよ。
■禁色(三島由紀夫)
え、やだ。うそ。こんなの、いいの。いや〜ん。ダメよ、ダメ。
■夢判断(フロイト)
これを読んだ後に、自分の夢をフロイト流に分析しました、というレポートを書けば、立派な読書感想文になると思うんだけど、どうか。「僕の無意識のうちにはどす黒いリビドーが渦巻き、尽きせぬ性欲で悶々としているのだ、ということがわかりました。」とかいうの。

(9)遊び狂うのもいいけれど、たまにはちょっと勉強しましょう、夏休み明けにはちょっと賢くなった自分をクラスのみんなに披露しよう。

■日本仏教史(末木文美士)
日本史の授業では、「最澄は天台宗、延暦寺。空海は真言宗、えーと」などと暗記するだけだった日本仏教。実はけっこうおもしろいんですね。本覚思想の話なんか、特に。
■絵画で読む聖書(中丸明)
聖書の知識とかそういうことよりも、アダムもイブもカインもアベルもイエスさんもマリアさんも、みんな名古屋弁でしゃべってるところが笑えます。
■孔子(井上靖)
孔子って、かっこいいんだ!ってことが、わかります。
■カオス―新しい科学をつくる(ジェイムズ・グリック)
90年代にずいぶん流行ったけど、最近はあまり聞かない「カオス」。混沌とした世の中を解き明かす鍵にはならなかったけど、理科の読み物としては、とってもおもしろいです。
■複雑系(M・M・ワールドロップ)
「複雑系」っていうのも、そういえば流行ったよねえ。今どうなっちゃったのか。こちらもけっこうおもしろいですよ。数少ないけど、新潮文庫の翻訳サイエンスものって、わりといいものが揃ってるので、新刊が出たらチェックするといいですよ。
■文人悪食(嵐山光三郎)
読み終わった後、なんだか「文壇通」になった気がします。
■ちはやふる奥の細道(小林信彦)
これぞ正しきパロディ。山口雅也の『日本殺人事件』が好きな人などは、ぜひ。

(10)夏といえば、盆踊り、虫取り、ラジオ体操、縁日、麦わら帽子、すいか、風鈴‥‥。子どものころが懐かしくなったら、これをどうぞ。

■膝小僧の神様(群ようこ)
「高円寺純情商店街に住んでいるちびまる子ちゃん」という感じかしら。
■ハックルベリィ・フィンの冒険
トム・ソーヤを読んで、マーク・トウェインを読んだ気になってはいけません。あんなの子どもだましなんだから。こちらが本家にして、白眉。
■幽霊(北杜夫)
「小説に書かれた“蝉の羽化シーン”の中でもっとも印象的な一節」が、ここにあります。
■夏の庭(湯本香樹美)
少年と老人。あざとい組み合わせなのだけど、たまにはこういうのも、いいんです。
■十五少年漂流記(ヴェルヌ)
ひみつ道具「人間ブックカバー」のおかげではあるのだけど、のび太くんすら、寝る間も惜しんで読んだという作品です。
■秘密の花園(バーネット)
大人になってからよく考えてみると、このタイトル、ちょっとエッチだと思う。

(11)ああもう暑くてやってらんないよ、ごろごろしながら読もうぜ、というダラダラ気分のときには、こういうのがぴったりです。

■ボッコちゃん(星新一)
日本人の教養として、星新一くらい読んでおきたいところ。まあ別に、これじゃなくても、どれでもいいんだけどね。
■ようこそ地球さん(星新一)
星新一は、何冊か、トイレに常備しておくといいと思います。
■ひとごろし(山本周五郎)
いちばん手に取りやすいところに、山本周五郎の文庫がドドッと並んでいる、そういう本棚を持っている人に、悪い人はいません。
■しゃべれどもしゃべれども(佐藤多佳子)
すさんだ世相の中、こんな小説に出会うと、ほっとします。
■百鬼園随筆(内田百閨j
あんなコワイ顔して、こんなこと書いてるのかと思うと、さらに笑えます。
■椰子・椰子(川上弘美)
「九月十三日 晴
 町内会の係で「一日幼児」になる。
 ちかごろの幼児は、成人とさほど差があるわけではない。どうやって幼児を装うか、苦慮する。
 ためしに、
「おなかちゅいたでちゅー」
「おちっこー」
 などの言葉を会話に何気なくはさんでみるが、ほんものの幼児から総スカンをくう。難しいものだ。」
■そういうふうにできている(さくらももこ)
「この腹の中に、何かがいるのである。大便以外の何かがいる‥‥!」
■散歩のとき何か食べたくなって(池波正太郎)
ああもう、池波正太郎の書く食べ物って、どうしてこんなにおいしそうなのか。どんなに暑くても、食欲がわいてきます。
■風流冷飯伝(米村圭伍)
ですます調で表紙もかわいらしいし、思わず子どもに読み聞かせたくなっちゃうのだけど、わりとエッチだったりして思いとどまるドタバタ時代劇。
■O・ヘンリ短編集(1〜3)(O・ヘンリ)
いわゆる「ちょっといい話」のパターンが、すべて揃ってます。
■サキ短編集(サキ)
O・ヘンリの温かさに飽いたら、クールでヒリリと辛いこちらをどうぞ。O・ヘンリよりは夏向け。
■秘湯中の秘湯(清水義範)
パスティーシュ11編を集めた短編集。清水義範初心者にも、いいんじゃないかしら。「取扱説明書」なんて、いかにも。でも本屋さんで立ち読みしないほうがいいです。吹き出しちゃうから。
■女子中学生の小さな大発見(清邦彦・編著)
「Tさんは、何秒間目を開けていられるか調べました。平均24・7秒目を開けていられました。涙が、悲しいときだけではないことも発見しました。」





(注)ということで、皆さんも、解説目録をめくりつつ、「自分だったら100冊に何を選ぶか」を考えてみてはどうでしょう。
ちなみに、このリストを作成した後、椎名誠絶賛の幻の名著、須川邦彦『無人島に生きる十六人』が新潮文庫から復刻されたことを知りました。読んでみたら、たしかに大興奮のおもしろさでした。おすすめです。
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