| マツオバ・ショウの日本ナンパ旅 |
| 《これまでのあらすじ》 ヘーイ、ベイベー!! 全国のカワイコちゃん、元気にしてるかい? オレの名はマツオバ・ショウ。ショウって呼んでくれ。 好きなものは、女と俳句。オレの熱い魂の俳句で、どんな女もイチコロだぜ。 今、相棒のソラ公と一緒に、全国をツーリングの真っ最中。ゆく先々で、かわいい女の子をゲットしまくり。 さて今回、北陸路を越中国の一振(いちぶり)までやって来たオレたちは…。 いやあ、今日はたいへんだった! 親知らず子知らず、って、ありゃ、なんだい。 あんなに乱れきった町は、見たことがないぜ。親も知らない子も知らない、相姦愛欲の巷。話に聞くソドムとゴモラも、これほどひどくはないね。さすがのオレも、うんざりだ。 早々に抜け出して、一振で宿をとることにした。 なんだか人の営みの愚かしさを感じちゃったんで、今日は女の子ナンパするの、よそう。久しぶりに、女っ気なしの夜ってのも、いいもんだぜ。 と思っていたんだが、夜中にふと目を覚ますと、隣の部屋から何やらあやしげな声が漏れ聞こえてくる。耳を澄ませて聞いていると、どうやら若い女が二人、それも、 「ああ、切ない‥‥」 とか、 「このまま二人一緒に‥‥」 とかいった囁き、さらに啜り泣くような声。ぐひょひょ、これはもしやもしや、夢にまで見た禁断の百合の園おねえさまもうあたしあたし…の世界なのでは!と、オレはもうなんだか興奮してしまい、手に汗握って息をひそめた。 ところが次に聞こえてきたのは中年男の野太いダミ声で、ということは、ぐわーっ、なんたること! 女二人を相手にヒヒオヤジがけしからぬ所行、許せぬ! とオレはギリギリと歯噛みしたのだが、だからといって良識ある一市民としては隣部屋に暴れ込むわけにもいかず、チクショウ、こんなことなら素直に女の子をゲットしておけばよかった、と後悔するばかり。あーあ、一ヵ月前、山形の立石寺の境内で、岩にしみいる蝉の声をききながら一儀に及んでしまったシズカちゃんとサヤちゃんは今どうしているかなあ、オレのことが忘れられないだろうなあ、と寂しく過去を追憶しているあいだも隣室から漏れる囁き声は続き、ええい、もうたまらん、ようし、ぐふう、こんなこともあるかと思って、相棒にソラ公を選んでおいてよかったぜ! オレは傍らでぐっすり眠りこけているソラのやつを揺り起こし、 「あっ、あっ、何するの、ショウくん、ぼく、ぼく‥‥」 などとほざくのも構わず素早く裸にひん剥いて、隣に負けぬくらい啜り泣くまでいたぶってしまった。 さて翌朝、その不埒な三人の顔を見てやろうと、昨晩の興奮さめやらず色白の肌を桜色に染めてぼんやりしているソラ公を引き連れて食堂で待ち構えていると、来た来た、あいつらがそうか。うーぐぐぐ、と睨みつけてやろうとしたんだが、どうも何やらようすがおかしい。女は二人とも水商売系のハデハデムチムチなおねえさん、男のほうはこれがどう見ても欲のなさそうな謹厳実直な顔立ちで、オレたちに気がつくと、遠慮がちな笑みを浮かべて、 「あ、おはようございます」 なんてぬかしやがる。オレはなんだか拍子抜けして、ついつい、 「あ、どうも」 と間の抜けた挨拶をしてしまい、そのまま三人の話を聞くことになったのだが、ああー、なんてこった。 女は萩子と月子という姉妹で、新潟でホステスをしていたのだが、ある日こんなことではいかんと一念発起、信心をおこしてこれから伊勢神宮へ参詣に行くというのだ。そして男は陰ながら二人の面倒を見てきた叔父で、二人を送ってきたのだがここで別れることになり、昨晩は遅くまで三人で泣きながら別れを惜しんでいたというのだ。あちゃー、なーんだ、そうだったのか。とんだ誤解をしたものだ。 三人はさらに、どうせ行く方向は同じなのだから、途中まででいいから一緒に行ってほしい、なんてぬかしやがった。 「ほらあ、女の子二人だけだとお、なんか、あぶないしい」 って、おいおい、オレもなめられたもんだぜ。オレはマツオバ・ショウ、日本でいちばんキケンな男なんだぜ。 しかし萩子と月子は意味ありげな目くばせをすると、伏し目がちにオレとソラ公を交互に見て、 「やだあ、そんなこと言って。わかってるのよう。あなたたちって、アレ、なんでしょ。うふふふふ」 げげっ、しまった! オレとしたことが、なんたる不覚。昨晩のあれ、隣に聞こえていたのかあっ! 「そっちのかわいいコが、ああん堪忍してえ、とか言って啜り泣いてるの、聞こえちゃったんだもおん」 ううう、やむをえぬ事情があるとはいえ、言い訳のできることではないしなあ。しかし、それはそれとして、何をどう言おうと、二人を一緒に連れていくわけにはいかない。オレたちは、日本全国ナンパ旅の真っ最中。女を連れていては、ナンパできないではないか。第一、玄人さんはオレたちの対象外だ。 「えーっ、いじわるう、そんなこと言って、ホントは、二人だけで、しっぽりしたいんでしょ。ねえ、でも、あたしたち、邪魔しないから、ね、おねがあい」 などとわめくのを振り切って、オレたちはさっさと逃げだした。やれやれ、とんだ災難だったぜ。 というわけで、今月の俳句。 一家に 遊女もねたり 萩と月 それをソラ公に言ってやったら、 「えーっ、やだ、ショウくん、そんな、恥ずかしい‥‥」 おいおい、何が恥ずかしいんだ。この句の意味がわかんないのかい? オレが眉をひそめていると、ソラのやつ、真っ赤になってうつむいて、 「同じ一つの宿屋に、遊女の人も泊まっていて、その隣で、ショウくんがボクを、剥ぎと突き…」 |