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オレたちのパンツのにおい
2000/03/25










銭湯に行ったときのこと。
脱衣場で服を着ていたら、さっきからワーワー言いながら風呂に浸かっていた二十歳前後の若者2人組が、やっぱりワーワー言いながらあがってきた。
そうしてワーワー言いながら体を拭いたあと、ひとりが、ロッカーから取り出した自分のパンツをしげしげと眺めていたかと思うと、やにわにそれにムギュと顔をうずめた。

それを横目でちらりと見てしまった私は、わっなんだなんだ、こいつヘンタイか!と恐れおののいてしまったのだが、さらに追い討ちをかけるように、その男、しみじみと、
「ふーっ、オレのパンツ、くっせー!」
あたり前ではないか。

すると、なんたることか、となりの相棒の若者も、自分のパンツを取り出して、やはりくんかくんかと丹念ににおいをかいだのちに、
「オレのパンツも、くっせー!」
わー、な、なんだこいつら。

さらにその男は、さきの男の鼻先にパンツを突き出して、
「オレのパンツのほうが、くっせえってば」
さきの男は、それを払いのけようともせず、くんくんかいで、
「ホント、くっせえな」
「2、3日、かえてないからな」

パパパ、パンツくらい、毎日かえなさいよ、アンタ。
そうやって私がとなりで戦慄していることを知ってか知らずか、その男ときたら、
「オレなんか、4、5日かえてねーよ。今日帰ったら、かえよ」
4、5日・・・。
もう何も言うことはありません・・・。

しかしまあ、なんというか、考えようによっては、
「オレたちの青春!」
って感じの男臭い会話のような気もしないではない。
「青春バンザーイ!」
って、こういう雰囲気かもしれない。
まあ最近、60年代、70年代風レトロが流行ってるから、こういうのも許されるのかもしれない。

その後も彼らの「くっせえ」話は続き、脱衣場を出ても、フロントのほうまでその声は響いており、風呂屋のおばさんさえもブハッと吹き出しているのだった。
夜中の1時近くで、隣の女湯はすでに灯が消えて誰もいなかったからよかったものの、これがもう少し早い時間だったら、女湯にいた女子高生・柚木けい子17歳などは、
「いやーん、パンツのにおいをかぎあう仲、だなんて・・・(ポッ)」
と、あらぬ想像をめぐらせたか、あるいは、
「い、いやだわ、オ、オトコって、フケツ・・・」
と、湯上りの体に鳥肌を立てていたに違いない。

それにしても男湯って、女湯と違ってあまりしゃべり声がきこえないわりには、ときどきオッサンの、
「カーッ、ペッ!」
なんてのが大音響で響いたりして、男にとっての女湯がそうであるように、女にとっての男湯というのも、わりとナゾな未知なる異空間なのだろう。
男湯と女湯。男と女。たかが壁1枚の隔たりであるにもかかわらず、しかも双方ともに素っ裸という根底的な共通性をもちながらも、両者の文化の相違を感じないではいられない。




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