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肉厚の方針
2001/06/03










去る5月31日、今後まとめられる経済財政運営の基本方針の原案が示された。
一連のニュースや新聞を見て、多くの人が思ったはずだ。
「何じゃ、そりゃ」

そうである。
いたって当然のような顔をして出てきているが、いったい何だかよくわからない。この言葉。
「骨太の方針」
何じゃ、そりゃ、である。こんな日本語、あったっけ。(注)

思わず、手元の辞書に手を伸ばしてしまった人も、多いはずだ。
「えーと、骨太、骨太…」
【骨太】の意味に、
「(2)基本的な、おおもとの、おおよその」
なんてのがあったかしら、と。
まあ私もそのクチでして、さっそく愛用の広辞苑を繰ってみた。
が、
「骨の太いこと。骨格の丈夫なこと。」
これだけである。そのまんま。まったくひねりなし。うーむ。
「骨格の丈夫な方針」
これは違うだろうなあ。

あ、そうかそうか、あれだ、あっちがダメだ。方針がいけない。
と、【方針】のほうを調べだした人も多いだろう。私もそのクチだ。
「えーと、方針、方針」
【方針】には、
「(3)男、男伊達、マッチョ、たよれるアニキ」
なんて意味があるに違いない、と。
「経済諮問会議」とか「経済財政運営」とか、小難しいこと言ってるフリして、これはあれだ、隠語なのだ。いわゆる永田町言葉なのだ。その実体は、単なる、
「ガタイのいいアニキを紹介」
ということなのだ。くぬー、このやろ。このたいへんな時期に、そんなことにかまけていていいのか。
と思ったのだが、しかしやっぱり、広辞苑に載っていたのは、
「(1)方位を指し示す磁石の針。磁針。(2)進んで行く方向。目ざす方向。進むべき路。」
これだけだ。
「骨太の方針」は「骨太の方針」以外の何物でもないのだった。

すると、何か。あれか。
これが「骨太の方針」で間違いないとしたら、今までの方針は、どっちかというと、
「華奢な方針」
「なよなよとした方針」
「腺病質の方針」
「思わず守ってあげたくなっちゃう方針」
だったってわけか。あまり口に出して言われなかったけど、そういうことだったのか。従来改革がうまくいかなかったのは、もとの方針が蒲柳の質だったからなのか。
でも、それだったら、私、恥ずかしながら、骨太なんかよりも、そっちの今までの方針のほうがいいぞ。
欲を言えば、
「ホロリとしたうなじの後れ毛が色っぽい方針」
「透けるほどに白い頬がかすかに朱に染まった風情が悩ましい方針」
「はらりと乱れたすそからチラリとのぞいた白い脛に、思わず目のやり場に困ってしまう方針」
なんていうんだったら、もっといい。
しかしまあ、世は挙げて、
「改革」
ということで、
「過去には戻れぬ」
ということで、
「国の方針を180度転換」
ということらしいから、しかたがない。まあようするに、わかりやすくいえば、
「そんなになよなよと色っぽい風情を保っていては、この不況を乗り切れぬ」
ということなのだろう。野暮ったいが、文句は言えまい。現実は厳しいのだ。

しかしまあ、こうなってくると、この「骨太の方針」があらかたうまくいったとすれば、次に出てくる方針は、これであろう。
「肉厚の方針」
である。骨の次は肉だ。決まっている。がっしりとした骨格に、豊満なお肉がくっつけられるのだ。
そして、そうなると次は、
「皮」
である。順番から行くと、そうあって当然だ。
皮を通り越して、肉の上にいきなり、
「毛」
などということになると、たいへん気持ちが悪い。

ただ、ここで少々、困ったことがないでもない。
「皮と言われてもなあ」
どうしたらいいのだろう。骨太、肉厚ときたら、皮は何か。
「薄皮」
「甘皮」
「鉄面皮」
どれもしっくりこない。
いっそのこと、
「柔肌」
「雪肌」
「もち肌」
などではどうか、ということになるのであるが、しかしそれでは先ほどの「思わず守ってあげたくなっちゃう方針」とどこかで通底してきてしまって、せっかくの骨太の改革も結局は今までのように骨抜きになって終わりかねない。

しかしそれは浅はかな考えというものなのかもしれないわけで、考えようによっては、「骨太」「肉厚」」ときて「もち肌」となると、これはむしろ、
「力士」
という感じがしないでもない。これら「骨太」「肉厚」「もち肌」という一連の基本方針には、「力士」という力強いテーマが秘められているのだ。
たしかに竹中平蔵経済財政担当相などは、あの顔からして子どものころは関取を目指したクチであろうから、ついにかなうことのなかった幼き夢を、今、経済という場、国という土俵で実現しようとしているのかもしれない。
「不況をうっちゃり」
「不良債権を寄り切り」
「予算配分を上手投げ」
おお、実に頼もしいではないか。
われわれ国民としては、この壮大な夢をおおいにもり立てバックアップし、無事改革が成ったあかつきには、彼に四股名を授けて、
「平蔵山」
とでも呼んであげてはどうかと思う。



(注)この「骨太の方針」という言葉自体は、「予算大綱」という言葉に宮澤財務大臣がクレームをつけたことなどをきっかけに、3月くらいから出てきているそうだが、そちらの方面に疎い私はとんと気づかなかった。
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