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水戸子
2001/04/17










はあ〜い、あたし、水戸子。
みんな、元気してるぅ?
あたしはぁ、…う〜ん、ちょっと、元気じゃないかな。
なんだか最近、腰が痛くってぇ。
…えっ、やだ、バカ、違うってば。腰の使いすぎとか、そんなんじゃないってば。ただの、腰痛。
んもう、エッチなこと、想像しちゃだめっ。プンスカ。

…えーっと、で、何だっけ? あ、そうそう、あたし、今、陸前の国は松島にいまーす。
松島って知ってる? もー、チョー絶景なんだから。超キレイって感じ?
松島や、ああ松島や、松島や。
なーんてね。気分はもう、ハ・イ・ジ・ン!
えーっ、違うわよ、廃人じゃなくて、俳人、なの。うふふ。

えっ、なんで松島にいるかって?
バッカねえ、決まってるじゃなーい。もちろん、…えーっと、なんでだっけ?
いーのいーの、あたし、旅の途中なの。日本全国を、マンユーしてるの。マンユー。
えっ、マンユーって何って?
あんたったら、つくづくバカねえ、そんなの、決まってるでしょ、マンユーのマンは、りっしんべんに…、あれ? そうだっけ? えーっと、えーっと、もうっ、いーの、マンユーはマンユーなの。
そんなこと、いちいち、あたしに聞くんじゃないわよ。言っとくけどね、あたし、すごいんだから。あたし、ホントは、さきのふく…あっ、ウフ、これ、内緒だったんだ。花も恥じらう、乙女の、ヒ・ミ・ツ!

「もうへとへとですよお、そろそろ休みませんか〜」
まあ、八兵衛ったら、またあんなこと言って。
えっ、八兵衛って誰って? 彼氏なのかって?
やだあ、そんなんじゃないわよ。失礼しちゃーう。
八兵衛は、あたしの、お・と・も。おともだちですら、ないのよ。うふふ。

「あっ、うまそうな団子。ちょっくら休みましょうよ〜」
んもう、八兵衛ったら、しょうがないわね。
ま、でも、いっか。あたしも、ちょっと、疲れちゃった。おなかもへったし。あ、そーいえば、今日、朝から何も食べてないんだ。
ふう、どっこらしょ。
あ、やだ、あたし、今、どっこらしょ、なんて、言っちゃった。やあだあ、もう、あたしったら。年寄りくさー。今の、内緒にしてよね。

えーっと、で、何だっけ。…そうそう、お団子お団子。
おばちゃーん、お団子ちょうだーい。
えっ、おしるこもあるの? うーん、なら、あたし、おしるこも食べるぅ。
あっ、でも、太っちゃうかな。…いーやいーや、今日だけ今日だけ。
…わっ、超おっいしーい。
あー、なんだか、乙女の、シ・ア・ワ・セって感じぃ。

ほらほら、助さんと格さんも、一緒に食べよーよ。
えっ、助さんと格さんって誰って?
助さんは佐々木助三郎、格さんは渥美格之進ってゆーんだけど、二人とも、もう、超カッコイイの。
えっ、二股かけてるのかって?
やだあ、そんなんじゃないわよ。あたし、こう見えても、純情なんだからあ。あー、その目、うたがってるぅ。
だいたい、二人とも、超ウブで超カタイのよねえ。
あたしが、
「今夜、いっしょに寝よっか」
って誘っても、
「わ、わ、わ、い、い、い、いけません、いけません」
とか言ってぇ、しどろもどろになっちゃうの。ひそかに、彼女とかいるのかなあ。

…ふう、ごちそうさまでした。おいしかったぁ。
さてと、それでは…。
「きゃあ〜、お助けください、お助けください〜」
「待て待て待てい!」
きゃっ、なになになに?
あら、やだ、向こうから、かわいい女の子が走ってくる。そのあとを追っかけてるのは、超ブーなサムライ。
やあねえ、ホントに。あたし、こーゆーときって、ダンゼン、女の子の味方なんだ。
助さん格さん、やっちゃえ!

「わっ、こらっ、何をする、痛い、わっ、やめんか、こら、貴様ら、わしを何だと心得る。わしは、仙台藩家老片原源右衛門の次男伊次郎であるぞ、こら、痛い、無礼者め、痛い」
へーえ、家老の子か。けっこう偉いんだ、このヒト。
ふーんだ、でも、へっちゃらだもんねー。
なにしろ、あたし‥‥うふふ。
助さん格さん、例のものを!
「はっ」
じゃじゃーん!!
「ひかえいひかえい、ここにおられるおかたをどなたと心得る。先の副将軍、ミトミツクニコーにあらせられるぞ!」
「ひ、ひええ。おそれいりましたあ」
うー、これこれこれっ。
こうやって、大の男が足元にひれ伏すのって、超ゾクゾクしちゃうのよねえ。あん、もう、カ・イ・カ・ン!

ってゆーことでぇ、あたし、ホントの名前は、ミトミツクニコってゆーんだ。
略して、水戸子。ミトミツクニコなんて、長ったらしくって、言ってられるかってんだ、べらぼうめえ、こちとら江戸っ子でい!って感じ。…あれー? あたしって、江戸っ子だっけ?
ま、いっか。とにかく、あたし、えらいんだぞ。さきのふくしょうぐん、なんだからぁ。えっへん。さきのふくしょうぐんってのはぁ、…えーっと、何だっけ? …えーと、えーと、…うー、偉いものは偉いのっ。ねっ!
ふう、ひと仕事したら、なんだか、お腹へっちゃった。
あ、そーいえば、今日、朝から何も食べてないんだ。
おばちゃーん、お団子ちょうだい。あと、おしるこも。

「…格さん、どう思う、ご隠居のこと」
「…ああ、困ったものでござるな、助さん。ああお惚けになられては…。物忘れと独り言はいいとしても、ご自分を若い娘だと思い込んでいらっしゃるのは、なんとも…」



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