本読みホームページ











一億総女子高生
2001/10/28










不況である。
あいかわらずの不況である。
なかなか先行きの見通しが立たない。
くわえて、テロである。アメリカやアフガニスタンは、たいへんなことになっている。
世界はこれからどうなっちゃうんだ、と思ってしまう。
なのに、である。
ふと目を転じて、渋谷やら新宿やらをわが物顔に闊歩する女子高生を見やると、
「不況なんてどこ吹く風」
といった風情。
「テロなんて、関係ないもんねー」
といわんばかりである。
そんな女子高生たちの姿を目にして、悲憤慷慨している御仁も多いだろう。
「あいつら、いったい何を考えとるんじゃ。社会では大人たちが、こんなにたいへんな思いを味わっておるのに」
と歯ぎしりしている営業部長・古間好夫53歳などもいるであろう。
しかしそれは、裏を返せば、ひがみ、やっかみの表れではないだろうか。
「くそー、オレも、女子高生だったら、こんな苦労も不安も味わわなくてもすむのに」

そうである。
それならば思い切って、女子高生になってしまう、というのはどうだろうか。
地味なスーツなど脱ぎ捨て、いそいそとセーラー服を着込んで、
「今日からあたし、女子高生です!」
などと、宣言してみるのはどうか。

「何をバカなことを」
とおっしゃる御仁がいるかもしれぬが、いや、じっくり考えてみてほしい。
この不況のただ中にあって、唯一元気なのは女子高生ばかりである。
女子高生こそが、消費を引っ張り、トレンドをリードしているのだ、などといわれて久しい。
となると、この停滞した世の中、閉塞した時代状況を打破するには、女子高生の力に頼るのがいちばんのはずなのだ。
うむ。
そうだ。
どうあっても、こうするしかない。
「女子高生になる」
日本が活路を見出すには、これ以外に方法はないのだ。
ここはひとつ、抜本的な改革を断行し、日本国民全員で、
「一億総女子高生」
になろうではないか。

「えっ、そんな、いきなりいわれても‥‥」
と、戸惑うかたがいるかもしれないが、大丈夫だ。
基本的に日本は制服社会であるのだから、みんなで女子高生の制服を着ることには、さほど抵抗はないはずだ。
先ほどの古間好夫53歳なども、表面上は、
「ばばばバカなことを! キミ、冗談もいい加減にしたまえ。エッ、この年になって、そそそそんな格好を、せよ、というのかね!」
と嘆き憤ったふりをするかもしれぬが、内心では案外、
「むふふ」
と喜んでいたりするのではあるまいか。
最後までさんざん抵抗しておきながら、いざとなると、
「そそそそんなにいうのならね、しかたがないから着てやるけどね、言っておくけど、ブレザーなんかとんでもないからな。セーラー服じゃないとダメだ。スカートにプリーツが入ってなきゃいかん。襟のところの白いラインは2本にしてくれ」
などと、やけに細かい注文をつけたりするわけである。
「あ、それと、リボンは臙脂色で」
わかりましたってば。
そうして、出勤前には鏡の前でスカートの裾をちょっと持ち上げてポーズをとったりもして、それまで身だしなみにはまったく無頓着で、結婚してからは自分で服や下着を買ったことなど一度もなかったのに、にわかに週末にはいそいそと買物にでかけるようになり、妻には、
「お前はついてこなくていいから」
と言いおいて、ひとりでかわいい下着を選びに行ったりするはずだ。

そうである。
「一億総女子高生」
ということは、すなわち、いきなり一億着以上の制服が必要になってしまうということでもあるのだ。
当然、アパレル業界は未曾有の活況に沸き返るだろう。
各ブランドの婦人服メーカーはもちろん、これまで紳士服メインだったメーカーも、続々とセーラー服やブレザーを発表することになる。
制服ばかりでなく、靴に靴下、周辺の小物なども各ブランドからこぞって新作が出されるに違いない。
「ヴィトンの通学鞄」
「トラサルディのルーズソックス」
「コムサの体操着」
といったものが、どんどん出てくる。
さらに、化粧品や携帯情報機器、日用雑貨、食料品、ファーストフードその他の産業も上り調子、それに引きずられて基幹産業も息を吹き返し、景気の好転は間違いない。
そのうえ、半年くらい経って、ちょっと景況も落ち着いてきた、というところで、
「夏服に衣更え」
ということになったりするから、また活気が生まれる。
みんなが女子高生であるということは、誰もがお金を貯め込んだりせずにバンバン使っちゃうということでもあるわけだから、内需拡大にもつながるだろう。まさに、いいことずくめだ。

無論、経済ばかりではない。
一億総女子高生化は、たとえば外交上にも、数々のメリットをもたらすだろう。
なにしろ、女子高生なのだ。
たいていのことは、何をやっても許される。
「北朝鮮ってー、なんかー、チョーむかつくー」
とか何とか、他国の悪口を言っても、
「まあ女子高生の言うことだから」
ということになる。
「えーっ、うっそお、ごっめーん。まちがってミサイル発射しちゃったー」
なんてことがあっても、
「まあ女子高生のやることだから」
と笑って許される。
「憲法9条とかいってもー、えーっ、むずかしいしー、あたしわかんなーい」
というわけでもあるのだから、平気で他国を侵略できる。
まあ侵略されるほうにしても、たとえば、
「いやーん」
とか言ってスカートをおさえながらパラシュート部隊として降下してくる女子高生の群などを見れば、まんざら悪い気もしないだろうから、安心だ。
そのうえ、そこはそれ、移り気な女子高生のことであるから、すぐに、
「あーっ、侵略なんて、めんどくせー。飽きた。カラオケでも行こ」
ということになるに決まっているから、
「ま、たまには、ちょっとくらい侵略されるのも、いっか」
なんて、気軽に侵略につきあう気にもなるに違いない。
日本周辺の国際関係は、切った貼ったの血なまぐさいものではなく、てきとうで生ぬるい、いい加減なものになっていくことだろう。

これを契機に、いっそのこと、日本は、
「世界の中の女子高生」
を自ら任じてしまえばいいのではないか。
「女子高生は、日本にすべてまかせろ!」
ということにする。各国は女子高生を廃止して、日本に一極集中させるのだ。
日本以外の国は、とりたてて女子高生が消費のカギを握ったりしてはいないから、女子高生がいなくなっても支障はない。むしろ、女子高生に投下していた資本を他に回せるわけだから、有意義ですらあるだろう。
そうして女子高生は日本だけになるのだから、当然、日本の存在価値は、大きく跳ね上がる。
長い世界の歴史の中で、ついに日本は、国際関係の中における、他に代わる者のいない独自の存在意義を見出すことにもなるのだ。素晴らしいではないか。

思えばわれわれ日本人は、過去には、
「一億玉砕」
を誓った国民でもある。
玉砕に比べれば、女子高生化なんぞ、何ほどのものであろう。
ためらうことはない。
みんなで一緒に女子高生になろうではないか!
むふふ。

ところで、こうなってくると、他の国も黙ってはいない。
特に、もともと制服好きの国、たとえばドイツなどは、すぐさま日本に続くであろう。
「日本が女子高生なら、うちは男子高校生だ!」
ということになり、一致団結して、
「八千万国民総学ラン」
になる。ベルリンあたりの上空を飛行機で飛ぶと、地上は学ランを着た市民で埋め尽くされ、もう真っ黒だ。
そのほか、スイスなんかは国旗が赤十字のマークに似ていることを生かして、
「国民総ナース」
を宣言したりする。
従来、経済的にも軍事的にもどうということのなかった国、たとえば東欧のルーマニアなどが、いきなり、
「国民総修道女」
ということになれば、コアなファンにはたまらぬということになり、国際的評価は格段にアップする、というようなことも起こるだろう。

こうして、国際関係の流動化は、ますます進展していくに相違ない。
たとえば東南アジアにおいて、
「国民総ブルマ」
を成し遂げたタイに、アメリカあたりが鼻の下をのばして急接近することも考えられる。
そうなってくると、それをやっかんだフィリピンなどが、
「わが国こそブルマ」
とばかりに名乗りを上げ、
「真のブルマ国の座をかけてタイとフィリピンが紛争」
という事態に進展したりもする。
その結果フィリピンが勝った場合、「真のブルマ国」の座を勝ち取ったはいいが、肝心のブルマが国内には足りないことになる。国内生産がなかなか追いつかない。
そこで急遽、
「ブルマ大量輸入」
ということになる。
タイのほうも、負けちゃった以上、もうブルマは必要ないわけだし、戦費をまかなうためにもこれがいちばん手っ取り早いと、ブルマ大量輸出ということになる。
そこで、その年のフィリピンの輸入品目は、
1位 ブルマ 245億ドル
2位 機械類 35億ドル
3位 原油 17億ドル
ということになり、一方のタイの輸出品目は、
1位 ブルマ 172億ドル
2位 機械類 148億ドル
3位 米 58億ドル
ということになる。
その年の受験科目の地理には、
「円グラフ(A)(B)は、タイの輸出品目・輸入品目を示したものである。円グラフ内の(1)(2)に該当するものは何か。次の(ア)〜(キ)の中から選べ。
(ア)米 (イ)セーラー服 (ウ)さとうきび (エ)鉄鋼 (オ)サンダル (カ)ブルマ (キ)バナナ」
というような設問が出されることになる。

と、思ったのだが、よく考えてみればみんなが女子高生であり、なおかつ女子高生であり続ける以上は、大学受験など存在しないのだった。がっかり、残念。
しかしせっかくの思いつきが無駄になるのもつまらないので、うーむ、そうだ。
受験して合格したら、
「大女子高生」
になれる、っていうのはどうだ?
って、‥‥ダメだ、意味不明でした‥‥。




トビラページに戻る 読みもの目次ページに戻る
top back