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嫁のサトコさんのおしりが
最近気になってしかたがない
お舅さんへ
『山の音』
川端康成
新潮文庫、¥476








息子のシンイチのところにサトコさんが嫁いできてから、かれこれ4年になるんだが、最近どうも気になってしかたがないのだ。
何が気になるって、ホラ、あれだ。
あれといえば、まあ、あれってことで、ま、この年になってとやかく言うようなもんじゃないんだが、まあ、なんていうかな、うむ、そうだ、親としてだな、イカン、と思うのだよ。

そう、そうなのだ、シンイチのやつの素行があやしいのだよなあ、最近。よそに女でもつくってるんじゃないのか。まあ浮気は男の甲斐性であって、わしも若いころは、あ、いや、そういうことではないんだけど、とにかくだな、少しは嫁のサトコさんの身になってみろ、と、こういうわけだ。
もうちょっと、かわいがってやってもええんじゃないか、と。

まあ別に、かわいがってやれっていっても、まあ、その、なんというか、あれってわけじゃないんだが、まあようするにだな、近頃ハヤリのだな、ほら、あれだ、あれ、セックスレス、あれなんじゃないかとだな、踏んでるわけだよ。わしは。

そりゃシンイチはええだろうよ、ほかに女つくっとるんだから。だけどサトコさんがなあ。かわいそうでないか。嫁いできたときには、ガリガリのヤセヤセで、シンイチのやつこんなのが好みなんか、と正直言って驚いてまったんだがなあ、最近なんだか、こう、腰のあたりとかなあ、むっちりとしてきて、わし好みに…、あ、いや、そうじゃなくてだな、そんなサトコさんというものがありながらだな、それをほっぽりだしてよそで女をつくるだなんて、人として、イカン、と思うわけだ。サトコさんもなあ、ほれ、せっかく、そんな、むっちりしてきたってのに、シンイチに相手にされんではなあ、まあ、なんだ、夜なんかだな、つらいだろうに。

そうやって、わしが、台所で夕飯つくってるサトコさんの後ろ姿なんかを同情の目で見てると、つれあいのやつがなあ、
「ちょっとあんた、どこ見てんのよ」
とか言うんだよなあ。そんなこと言うくせに、夜、寝床で手をのばすと、
「ちょっとあんた、何してんのよ、いい年して、みっともない」
なんて言うし。
いや、だからといって、なんだな、別に何をどうしようってこともないんだがな、まあとにかくだな、サトコさんを、あ、いや、シンイチのやつをな、いや、もう、ほんとに…。

という、そんな思いを常日頃味わっているあなたにおすすめしたいのが、川端康成『山の音』である。
「別れても、お父さまのところにいて、お茶でもしてゆきたいと思いますわ」
なんて、むふう、言われたいではないか。
あ、いや、そう言われたからといって、別に、わしは、何も、そういうことをだな、考えているわけでは、…バカもーん!わしを何だと思っとるんだ。わしはだな、ほかに身よりのないサトコさんのことを、ちゃんと思ってだな、こう言っとるわけであって…。


(注)『山の音』について、もっとちゃんとしたことを知りたいかたは、コチラのホームページをご覧になると、けっこうものしりになれます。
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