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小学校てい学年いかの男の子に 『社会科学の理論とモデル(3) 権力』
盛山和夫
東京大学出版会、2000





こんにちはー。



あれえ?
へんねえ、へんじがきこえないぞー。
もういちど、せーのー、こんにちはーっ!

はーい、こんにちはー。
男の子は元気がいちばんですよねー。
きょうはー、おねえさんが、元気なみんなに、本の話をしまーす。

あらあ、なあに、そんな、つまんなさそうな顔しちゃって。
だめですよー、しょたいめんのわかい女せいの前で、そういう顔をしちゃ、いけませーん。
これは、男子のてっそくよー。
おとなになってからそんなふうだと、モテないわよー。今のうちから、れんしゅうしておきましょうねー。
はーい、では、みんな、こっちむいてー。ちゅうもーく。
えーと、それじゃあ、まずは、みんながニコニコしちゃう話からはじめるわね。
そうねえ、みんな、仮面ライダーは、すきかなあ?

はいはいはーい。わかりましたー。
仮面ライダー剣(ブレイド)、毎週、ちゃんと見てる?

はいはい、わかりましたー。
みんな、仮面ライダー、大すきなんですねー。
あっ、キミは、くつもブレイドなのね。あ、キミも。えっ、今はいてるパンツもブレイド?
あらー、はーい、見せてくれなくてもいいのよー。
じゃあねえ、ブレイドの中では、どの仮面ライダーがいちばんすき?(注1)

はいはいはーい、やっぱりブレイドが人気なのねえ。
おねえさんはねー、ブレイドよりも、カリスがすき。

えー? だって、ケンザキくんより、ハジメさんのほうが、かっこいいじゃなーい。

はいはいはーい、わかりましたー。へんしん前のすがたは、かんけいないのね。
あ、キミはカリスのファンなんだ? えっ、でも、へんしん前より、へんしん後のほうがかっこいいって?
うーん、そっかー。やっぱり、男の子だもんねえ。
仮面ライダーは、男の子の、あこがれだもんねえ。
おっきくなったら、仮面ライダーになりたいって人、手えあげてー!



あ、そうなの。さいきんの子は、けっこう、さめてるのね‥‥。
えーと、さてさて、それはそれとして‥‥、ねえ、みんな、仮面ライダー見るときって、ママもいっしょに見てる?

はーい。そっかー。やっぱり、ママもけっこう見てるのねえ。(注2)
あ、中学のおねえちゃんもいっしょ?
そうよねえ、かっこいいもんねー。
でも、ママやおねえちゃんは、せんとうシーンは、あんまり見てないんじゃない? せんとうがはじまったら、すぐにトイレにいっちゃったりとか。

でしょー。よく知ってるでしょ。だって、おねえさんも、そうなんだもーん。

はいはいはーい、わかりましたー。わかったから、そんな、ブーイングするの、やめましょうねー。
でもねえ、へんしんしちゃったら、顔がわかんないでしょお? だから、つまんないのよねー。

はいはーい。みんなのいうことも、もっともですが、でもねえ、やっぱり、顔は、だいじよお。
さいごまで、へんしんしなければいいのに、っていつも思うもの。
みんなのおかあさんも、きっと、そう思ってるわよ。

はいはいはーい、でもみんなは、へんしんした後の仮面ライダーのほうが、すきなんですねー。

はーい、そうのなのねー。へんしんしてからのほうが、たのしいのねー。
さいしょからさいごまで、もう、ぜーんぶ、せんとうシーンばっかりだったら、いいのにねー。
さいしょにいきなり、てきをたおして、そしたらまた新しいてきが出てきて、それをたおしたら、またつぎのてきが出てきて、みたいな。
デカレンジャーや、ウルトラマンも、ぜーんぶ、せんとうばっかりだと、みんなも、大よろこびでしょ。おねえさんはイヤだけどねー。

はいはいはーい。わかりました。
でもねえ、そういうことって、さいしゅう回くらいしか、ないんだもんねえ、ざんねんよねえ。

はいっ、じゃあ、そこで、本の話です。



あらー、わかい女せいの前で、そんながっかりな顔しちゃだめって、さっき言ったばかりよねえ? はーい、こっちむいてー。ちゅうもーく。
わかい女せいの前で、よそ見するのも、いけませーん。男子のきほんマナーよー。あと十年たてば、どうせ、よーく身にしみてわかるから、今から気をつけておきなさーい。
おねえさんと、やくそくよー。
はーい、では、本の話でーす。
仮面ライダーやウルトラマンが、さいしょっからさいごまで、ぜーんぶせんとうだったらいいなあ、っていうみんなに、ぴぃーったりの本を、ここにもってきましたー。さーて、なんでしょう?

うーん、ざんねーん、ちがいまーす。仮面ライダーの本じゃあ、ありませーん。
デカレンジャーでも、ウルトラマンでも、ないですよー。

ブブー。ちがいまーす、ガンダムでもありませーん。

んー? なんですか、その顔は? さっき、おねえさんと、なんてやくそくしたかなあ?

はーい、よくできました。
じゃあ、あらためて、しょうかいしますよー。
みんなにおすすめなのは、この本でーす。
じゃーん。
これ、『権力』。「社会科学の理論とモデル」シリーズの1さつでーす。
この本は、んーもう、すごいのよー。さいしょっから、さいごまで、もう、ドギャーン、バガーン、ズギャーン! せんとうシーンばっか、へんしんしっぱなしってかんじよー。
つぎからつぎへと、どんどん出げんするてきを、ビシッ!バシッ!ズゴゴゴーン!って、なぎたおしていくの。それも、ザコキャラじゃなくて、ボスキャラ級ばっかなのよー。
もうとにかく、じゅうらいの社会科学における権力論に、ぜーんぶ、ダメ出し。
今までのけんきゅう者は、き本的に権力を説明項としてしかとらえていない!とズバーン!とかっぱして、
「同じ「権力」ないし「social power」などの言葉を用いてそれぞれ異なる社会現象を指示してきたのである」
と、権力がいねんをめぐるバベルの塔じょうきょうをスパパーン!と指てき。権力とは被説明項であるとのスタンスに立って、それらをひはんしつつピシッ!パシッ!と分るい・せい理し、社会的しくみとしての権力への正しいアプローチ法をていじしちゃうんだけど‥‥。
もう、そのひはんの切れ味が、たまんないのー。だれもかも、みんな、コテンパンなのよー。
たとえば、パーソンズについては、「権力と貨幣の類比性を追求し、権力が政治システムと他のシステムとのあいだの相互交換を媒介するメディアであることを主張すること」は、
「確かに一つの知的試みであったろうが、意味あるものとは思われない」
と、いちげきのもとにスパーンとなで切り! 返す刀でルーマンも、バッサリよー。
みんな大すきなフーコーも、その「知=権力論」について、
「王政権力とは異なる概念図式の持つ作用力が近代社会のある一面を規定してきた実証的議論の発見的意義は大きい」
ともちあげたうえで、たとえば、
「かつての「王政権力論」と同様に、「権力」を何か本来的には望ましくないもの、除去すべきものであって「権力からの解放」があるべきだと考えているのだが、もしそうだとすると、何らかの意味で「権力によって拘束されていない個人」の概念が必要になる。しかし、そうした個人がどのようなものであるかはまったく明らかではない」
と、ドギャギャギャーン!と脳天さかおとし!
つづいてブルデューの象徴権力論も、そのぎろんのはいけいに無定義的にぜんていされている「客観的な権力関係」をねらって、ブシャアアアッ!とひとつきよー!
フェミニズムのぎろんにたいしても、たとえば江原由美子がてい出する「「男と女は差異があるか?」という問いかけ自体が持つ権力作用」というよく知られたテーマをとりあげて、真一文字に一刀両だん!
江原は、
「女性は、この問に「差異がある」と答えることも、逆に「ない」と答えることもできない。「ある」という答えは、「では差異があるのだから、女性と男性は平等な取扱いができませんね」という判断を導く。この判断は、現実的には、大半の場合、女性の生活範囲の限定を帰結する。「ない」という答えは、「では女性は何でも男性と同様にできますね」という判断を導く。しかし、「男性標準」の世界では、女性は単に「男性標準」からする二流市民である。この問は本質的に、不当な問である」
と、イエスと答えてもノーと答えても答える側はきゅうちにおいこまれるダブル・バインドであると言って、「それに抵抗する第一歩はそうした問いの構造自体を見抜くことだと主張」するのね。
なるほどー、なんて、ふつうだったらなっとくしちゃいそうなんだけど、ちょおっと待ったー! そうはとんやがおろさないわっ!
「問いの構図(前提)を見抜くことは意味のないことではないが、それ自体は何ら有効ではない」
と、あっさりいなして、
「必要なことは、それとは異なる別の観念体系を構築すること、ただそれだけにすぎない」
と、こともなげにくりだす必殺カウンターパンチ!
「今の場合であれば、「男女の差異を認めながら、どの点において男女が異なる処遇を受けることが正当であり、どの点においてはそうでないのか」の理論をうち立てることである」
と、ドビュシューン!と必殺キック! ああ〜ん、すごいわあー。
おしなべてフーコーいこうのこうしたポストモダン権力論にかんしては、
「社会的世界そのものが観念図式によって構築されその内部にある、という事実の決定的な重大性にまったく気づいていない」
と、ドガシャーン!イオナズン!ってかんじで、いちもうだじん!
ええい、もう、めんどくせーぜ、みんないっしょにかかってこーい!とばかりに、
「権力理論がなすべきことは、さまざまな権力現象のしくみを明らかにすることである。‥‥そして、しくみを明らかにすることは、「権力とは何か」とか「現象のうちどれが権力でどれが権力ではないか」というような「権力の同定問題」やあるいは「誰が権力者か」とか「どこに権力が帰属できるか」という「権力の帰属問題」に答えようとすることではない。同定問題や帰属問題――これはまさにこれまでの権力論が例外なく、意識的に追究してきた問題に他ならないのだが――は、無意味な疑似問題でしかないのである」
と、みんなまとめて、バッサリよー。宮台真司もサイードも、かたなしよー。あふうん、もうもう、おねえさん、どうにかなっちゃいそうっ!
ってことでぇ‥‥。



はいはいはーい、はいっ、みんな、おきてくださーい。目ぇさましてー。
はーい。おねえさんのお話は、これでおわりでーす。
はい、そこのキミ、よだれふいてー。
はーい、それじゃあ、おしまいですよー。みんな、おねえさんとしたやくそく、ちゃんとおぼえてるかな?

はーい。そうですねー。よくできましたー。
じゃーあ、みんなにおすすめした本のタイトル、おぼえてるかな?

ブブー。いけませんねー。
はーい、もういちど、よく見てくださーい。これでーす。『権力』。
見た目はそっけないけど、おもしろいですからねー。
あ、でも、ちょっと漢字が多いから、おかあさんかおとうさんに、よんでもらってくださいねー。




(注1)
仮面ライダー剣は、2004年1月からの放映。このごろの仮面ライダーは、複数出てくるのが通例であり、そのライダー間の対立やら葛藤やらが、またひとつの見せ所となっている。仮面ライダー剣には、トランプの4つのマークに見立てたブレイド、カリス、ギャレン、レンゲルの4人のライダーが登場する。
(注2)
仮面ライダーに変身する役の俳優には、子どもたちのママにモテそうな人を起用するのが最近の通例となっている。オダギリジョーや要潤がライダー出身であるのはよく知られたところ。
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