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しりとりファンには
この本を
『ドキュメント ザ・尾行』
塔島ひろみ
出版研、1995
¥1,400







「しりとりしよう」
「しようしよう」
「妖怪しりとりにしよう」
「じゃあボクからね。ぬ、ぬ、ぬらりひょん!」
「あ、“ん”がついた。負けー」
というのが、私が体験した中でもっとも短いしりとりであるが、まあとにかく、プレイステーションやら何やらが全盛の現代においてなお、しりとりが日本人にもっとも愛され親しまれている遊戯のひとつであることには変わりない。

電車の中なんかでも、ときどきお母さんと子どもが楽しそうに(しばしばお母さんのほうは本なんか読みながらめんどくさそうに、なんだけど)、しりとりをしている光景を見かける。
向かいに座ってるおばあさんなどもにっこりしちゃったりなんかして、口から出る言葉などという目に見えぬ曖昧なものが、どうしてこうもまあ日本らしい心安らぐ雰囲気を紡ぎ出せるものかと、まったく驚かされるばかりである。

そんな国民的な遊戯であるしりとりだというのに、何ゆえ、
「全日本しりとり選手権」
などというものがないのだろうか。
「しりとり五段」
などという、有段者がいてもいいではないか。
と、常日頃しりとりの来し方行く末に胸を痛め、悲憤慷慨しているあなた、そんなあなたもこれを読めば、きっと溜飲が下がることだろう。
塔島ひろみ『ドキュメント ザ・尾行』である。

道行く知らない人にてきとうに目星をつけて、
「あの人を尾行してみよう!」
という内容の、ストーカー犯罪がクローズアップされるご時世においてはいささか不謹慎な気がしないでもない本なのであるが、まあバカというか何というか、とにかく手に取ってみたまえ!という感じのオモシロ本であることは疑いない。

で、それが何でしりとりファンのためのものであるのかというと、尾行というのは、けっこうヒマなのね、ようするに。相手がパチンコ屋に入っちゃったりしたら、出てくるまで待ってなくていけないわけで、しかもよそ見とかしないで張り込みをしてなくちゃいけないわけで、つまんないわけ。
そこで大活躍するのが、われらがしりとりなのだ!
「しかたがないから、われわれはしりとりをして待つことにした」
なんて感じで、これを読んでると、出てくる出てくる、しりとりが。ことあるごとにしりとりが出てきて、ファンとしては、ああもう感涙!という感じなのだ。

んでもって、そのしりとりも、
「パピプペポの文字が入ってないとダメしりとり」
とか、
「“っ”がないとダメしりとり」
とか、なかなか高度なのだ。
「妖怪しりとり」「動物しりとり」みたいな、テーマ別しりとりしか知らなかった諸君は、しりとりの奥深さにあらためて身が引き締まることであろう。

筆者の塔島ひろみは、詩人。言葉が好きで好きでしかたがないようである。
ほかにも『楽しいつづりかた教室』のような著書もあって笑えるのだが、まあそんなことはさておき、とりあえず友達をつかまえて、この、
「“っ”がないとダメしりとり」
をやってみたまえ。ハマりますぞ。


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