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無垢で世間知らずでほわーんとしていて、見た感じちょっとオツムのほうがトロそうで、それでいてカラダのほうはけっこうムチムチでボインボインだったりして、見ていてハラハラしちゃうのだけど、実はわりとしっかり者で面倒見がよい保母さんタイプの年上のお姉さんが好きな人には | 『高慢と偏見』 ジェーン・オースティン 岩波文庫 |
たとえば、 「まだあどけない14歳でセーラー服がよく似合って、色白でロングヘアで手足が細くって、そのくせ胸なんかはけっこうあったりする、ちょっとエッチなことにも興味シンシンな眼鏡っ娘」 が好きな人のための小説を、などと言われても困るのである。 そんなもの知るわけないではないか。 まあもちろん広い世の中であるから、もしかしたら『イケナイ中学生メガネ大作戦』とか『愛欲の放課後メガネ娘』とか、そちらの方面の書籍においては、この「まだあどけない14歳でセーラー服がよく似合って、色白でロングヘアで手足が細くって、そのくせ胸なんかはけっこうあったりする、ちょっとエッチなことにも興味シンシンな眼鏡っ娘」が縦横無尽に大活躍して、殿方などはコーフンして夜も眠れない、という作品がないとは言い切れないが、しかし残念ながら私はそちらの方面に関しては不明を恥じるばかりである。 このコーナーの(ま)のところに、 「まだあどけない14歳でセーラー服がよく似合って、色白でロングヘアで手足が細くって、そのくせ胸なんかはけっこうあったりする、ちょっとエッチなことにも興味シンシンな眼鏡っ娘が好きな人には」 という項目が付け加わることはないであろうから、申し訳ないがそちらの方面が好きなかたは、ほかをあたってもらいたい。 しかし、これが、 「無垢で世間知らずでほわーんとしていて、見た感じちょっとオツムのほうがトロそうで、それでいてカラダのほうはけっこうムチムチでボインボインだったりして、見ていてハラハラしちゃうのだけど、実はわりとしっかり者で面倒見がよい保母さんタイプの年上のお姉さん」 が好きな人のための本を、となると話は別である。 条件的には「まだあどけない14歳でセーラー服がよく似合って、色白でロングヘアで手足が細くって、そのくせ胸なんかはけっこうあったりする、ちょっとエッチなことにも興味シンシンな眼鏡っ娘」と同じくらい厳しいように見えるのだが、しかしこちらの「無垢で世間知らずでほわーんとしていて、見た感じちょっとオツムのほうがトロそうで、それでいてカラダのほうはけっこうムチムチでボインボインだったりして、見ていてハラハラしちゃうのだけど、実はわりとしっかり者で面倒見がよい保母さんタイプの年上のお姉さん」って、少年マンガなんかにはわりと登場するタイプだと思いませんか。 ゆうきまさみの「じゃじゃ馬なんとか」に出てくるあぶみさんなんて、まさにそのままではないか。あるいは、お色気コメディものであれば、この手のキャラは定番であるような気もする。 やはり少年というものは、「無垢で世間知らずでほわーんとしていて、見た感じちょっとオツムのほうがトロそうで、それでいてカラダのほうはけっこうムチムチでボインボインだったりして、見ていてハラハラしちゃうのだけど、実はわりとしっかり者で面倒見がよい保母さんタイプの年上のお姉さん」という存在に、ちょっぴりあこがれちゃったりするものなのだろうか、と思ったりもするのであるが、では、これがマンガではなく小説で、となるとどうか。 それも少年向けライトノベルではなく、岩波文庫に入っちゃうような押しも押されもせぬ本格小説となるとどうか。 ふふふ、安心召されよ。 「無垢で世間知らずでほわーんとしていて、見た感じちょっとオツムのほうがトロそうで、それでいてカラダのほうはけっこうムチムチでボインボインだったりして、見ていてハラハラしちゃうのだけど、実はわりとしっかり者で面倒見がよい保母さんタイプの年上のお姉さん」が大活躍する小説は、岩波文庫にちゃーんと入っているのである。 それどころか、多くの世界文学全集にも、さらにサマセット・モームが編んだ『世界の十大小説』の中にも入っているのである。 その作品が執筆されたのは18世紀の末、舞台はイギリスである。 「えっ、そんな時代にお色気ラブコメ!?」 と色めき立ってしまったあなた、まあまあ、そんなに焦らないで。 お色気ラブコメではないが、すべてのラブコメの原点とも言うべき作品。ジェーン・オースティン『高慢と偏見』が、それである。 これに出てくるヒロインのエリザベスの姉、5人姉妹の長女であるジェーンこそ、まさに「無垢で世間知らずでほわーんとしていて、見た感じちょっとオツムのほうがトロそうで、それでいてカラダのほうはけっこうムチムチでボインボインだったりして、見ていてハラハラしちゃうのだけど、実はわりとしっかり者で面倒見がよい保母さんタイプの年上のお姉さん」なのである。 もしかしたら、 「ワタクシ、『高慢と偏見』読んだことあるですけど、ジェーンがそんなムチムチでボインボインだなんて描写は、一語としてなかった気がしますわ」 などと反論するかたも一部にはあるかも知れぬが、しかしそれは読み方が浅い、というものである。想像の翼をはためかせ、心の眼を通してこの傑作を味わってご覧なさい。ジェーンはもう絶対、「無垢で世間知らずでほわーんとしていて、見た感じちょっとオツムのほうがトロそうで、それでいてカラダのほうはけっこうムチムチでボインボインだったりして、見ていてハラハラしちゃうのだけど、実はわりとしっかり者で面倒見がよい保母さんタイプの年上のお姉さん」なのである。そうなのである。 当時弱冠21歳だった作者が、牧師館の一隅で家事の合間を縫って少しずつ書きためた初めての小説は、その後200年の長きにわたって、「無垢で世間知らずでほわーんとしていて、見た感じちょっとオツムのほうがトロそうで、それでいてカラダのほうはけっこうムチムチでボインボインだったりして、見ていてハラハラしちゃうのだけど、実はわりとしっかり者で面倒見がよい保母さんタイプの年上のお姉さん」好きな人に、夢と希望とロマンを与え続けてきたのである。 そうして、今後さらに何百年にもわたって、将来の「無垢で世間知らずでほわーんとしていて、見た感じちょっとオツムのほうがトロそうで、それでいてカラダのほうはけっこうムチムチでボインボインだったりして、見ていてハラハラしちゃうのだけど、実はわりとしっかり者で面倒見がよい保母さんタイプの年上のお姉さん」ファンに夢と希望とロマンを与え続けるだろうことは、言うまでもなかろう。 電車の中などで真面目そうな男子高校生などが手にしている文庫本が『高慢と偏見』だったりしたら、 「そうかそうか、キミは、『無垢で世間知らずでほわーんとしていて、見た感じちょっとオツムのほうがトロそうで、それでいてカラダのほうはけっこうムチムチでボインボインだったりして、見ていてハラハラしちゃうのだけど、実はわりとしっかり者で面倒見がよい保母さんタイプの年上のお姉さん』ファンなんだね!」 と、温かく見守ってあげるとよいであろう。 |