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ペットを飼いたいんだけど
うちはマンションで…、
とお悩みのあなたに
『うちのカメ』
石川良輔
八坂書房、1994
¥2,060






動物が好きで好きでたまらなくて、ワタシ子どものころムツゴロウ先生みたいになりたかったの…、という心の夢を抱いていて、でも現実は都会のマンション暮らし、あーあ、せめて庭付きの一戸建だったらなあ、ラブラドール・レトリバーのジョンなんかに、
「きゃっ、やだ、もう、ジョンったら、きゃん、くすぐったい!」
なーんていう生活ができるのになあ…。

と、お嘆きのあなたにぜひともこの本をおすすめしたい。
石川良輔『うちのカメ』である。
へっ、カメ?
そう、カメである。
カメって、あの…?
そう、そのカメである。
それも、ごくふつうのカメ。ふつうのクサガメ。ガラパゴスゾウガメとかカミツキガメとかマタマタとかナガクビガメとかじゃない、ホントにただのふつうのカメである。

この本は、そんなふつうのカメのいる生活を、淡々と、訥々と、素朴に飾り気なく、書きつづったものなのである。
正味わずか100ページ。しかし、その100ページの中に込められた感動は、うーむ、言葉では言い表せない。

なにしろ、まず1ページ目から、ビックリだ。
《もう、うちに35年もいるのです。》
なのだ。ごくふつうのカメとはいえ、35年も飼ってるカメなのだ。
35年といったら、犬や猫なんて比較にもならぬ。そこらへんのムスコやムスメよりよほど長くいるのではないか。

パラパラとめくってみると、カメはうちの中で放し飼いにされてるらしい。
《ともに眠る》
《ソファの上で毛布を掛けてもらいます》
《座っている妻の膝の下に潜り込もうとします》
などなど、愛らしいスナップショットが満載だ。きゃーん、かわゆい!

しかし驚くのはまだ早い。読み進めると明らかになってくるすさまじい事実、たとえば、えーと、ここで言っちゃうのはアレなんだけど、まあいいや。飼いはじめてから24年目、ある日カメが卵を産み、そこではじめて《うちのカメはメスであることがわかりました》って、あなた、24年間、メスかオスかもわかんなかったのかい!
で、それをきっかけとして今までただ漫然と飼っていたカメをもう一度見直してみて、名前があったほうがよかろうと、「カメコ」と名をつけた、なんて、カメと暮らしてると人間まで悠長になってしまうのだろうか…。

などなど、まあとにかく、読み終わったらあなた、ラブラドール・レトリバーなんかよりも、
「時代は今、カメだわ!」
と思うようになること間違いなし!なのである。


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