超長編詩

遠 く 海 を 想 う

                 7/20(海の日)start









序にかえて










遠く海を想う






小さな海辺の町に住んでいた頃・・・



嵐の夜

集中豪雨と暴風と荒れ狂う波の音が絶叫し合い

闇の底から不気味な大合唱が轟き渡って

言いしれぬ恐怖に心底震えたことがある



今にも大海が盛り上がって来て そのまま飲み込まれてしまいそうな

己の生の根源そのものを ぐらぐらと大きく揺さぶられるような

何処か抗いがたい 底知れぬ 強烈な畏怖の体験であった



翌朝 海岸に出てみると

空は何事もなかったように清々しく晴れ渡っていて

朝陽にきらめく平和そのもののような いつもの海がそこにあった



寄せては返す

太古からの

どこまでも単調な

際限のない反復



大いなる生の揺籃の

安らぎに満ちた 果てしない慰撫



しかしながら 眼前に海食崖を見下ろせば

むざんなまでに削り取られた赤裸々な実相



紺碧の波の玉砕と

真っ白な水泡の揺り戻しと回旋が

繰り返し 繰り返し

時の永遠を咆吼のように激白し続けていた



いま

7月の林間から 遠く あの海を想う



雲のかなたから たどりつく風に乗って

あのときの潮騒と原初的な海の匂いが ふと蘇る



海は もとより 私たち生きとし生けるものの

遠い 遠いふるさと

その始源に 瞑想のように立ち戻りつつ

遠く海を想う



翻ってまた

さらに遠く

この星の未来を

想う











T 私たちにとって海とは何か





水の惑星 地球



その水の大半は海という形でプ−ルされている



地球の表面積の約70%を海が占めており

このことを想像しただけでも

地球にとって

海というものの存在が いかに大きいかがわかる



生物の進化の歴史をさかのぼって行くと

そのル−ツは海にたどりつく

つまり地球の生命の歴史は

海から始まった



動物も植物も

原初の地球の陸上には

その影すら存在していなかった



生物が陸上に進出して行くためには

空気中の酸素やオゾン層などの準備が必要で

それらが整うまでには

いくつかの段階を踏まなければならなかった



海には

 すなわち海水中には

生命を育む何かがあった



というよりも

地球上の生命体は

海水になじみながら芽生え

その時々の環境と相互作用を繰り返しながら

ゆっくりと進化して行ったと言うべきかもしれない



海はほとんどの川の水の行き着く先である

その間いろいろなものが水の中に溶け込み

海へと運ばれる



だから

海水中には

地球上のすべての物質が溶け込んでいると言っても

過言ではない



海は

そうした

「混沌」や「豊饒」の

代名詞でもある







ゆゑもなく海が見たくて

       海に来ぬ

       こころ傷みてたへがたき日に







啄木の歌である

大変率直な心情がストレ−トにそのまま吐露されているので

何の解説も不要だろう

誰にでも そのままでわかるという感じだ



しかし試しに「でもなんでわかるんだろう?」

と問いを発してみれば

どうだろうか



それは多分 「海」だから

なのではないだろうか



「私たちにとって海とは何か」

ということを考えるとき

特に心情的な面からアプロ−チする上で

この歌は大変 重要な示唆に富んでいるように思われる



「母なる海」ということば・・・

あまりにも言い古されている感があり

ありきたりで 詩のことばとしては

使うことさえ かなりの抵抗を感じることばではあるが

それだけ 万人に認められた確かさを感じることばでもある



かつて誰かも触れている

そもそも海という文字の中に

母があることや

人の子宮(母胎)も海に似ていることなど



潮の満ち引きが月の満ち欠けの周期に一致していることと

いわゆる月経の周期との符合など



海は やはり母なのである

そしてそれは

様々な意味合いを併せ持つのだということ・・・



何よりも それは 生きとし生けるもの すべてにとっての

全生物に共通する母なのだということ・・・



たとえば 台風の後の濁流

奔馬の如く駈けて行く濁流の行き着く先は

やはり 海



海はすべてを受け入れる

そして 生命(いのち)のすべては海から始まったということ・・・ 



つまり それは 大いなる終焉でもあり

同時にまた 大いなる始源でもあるということ・・・



ほんとは

小さな葉の一枚にも

1っぴきの蟻んこの一生にも

おなじサイクルはちゃんとあるんだけど

それを大劇場の

一大ドラマに仕立て上げて

私たち地球のすべての人々に

ゆったりと大きく見せてくれているのが

海なのかもしれない


(つづく)










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