いなご
      
      
仲程




向こうのほうから

隣村の太鼓の音が聞こえてくる

あれは文兄やんのバチとそっくりだ

きっと上にまたがっているのは

五年生になった次男だろう




一昨日佃煮を喰ったと

鼻を鳴らしていたから




きっと美味しいだろう

というと

ええ〜という子供たちの

灯がゆれた




ほら

お前らも早く

いなごを平らげて

バチをふるうように









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in the sea
                        飛龍




溢れんばかりの

青に溺れる。



前後上下左右

どの方向も 限りなく透明な青の世界

地上にはない 水の感触

時折浮かぶ 白い泡



揺れる水面に鳥の影

あの形は多分 カモメかな

残念でした

僕は魚じゃありません。

それに 食べてもおいしくないよ

他のところを当たってくれる?



耳が痛いくらいに 静かだ

目の前を泳ぐ 魚の群れの

きらきら光る うろことか

少し潜ったとこにある

色とりどりの珊瑚とか

キレイだけど

やっぱり 青が最高



水面から顔を出すと

直射日光に目をヤられた

眩しい

思わず

目の前に手をかざした



たまには

内側からの眺めもいいか























青の旅人
                飛龍




僕は出ていく

遥かな世界に自由を求め

とおい とおい空と海

一面の青を見るために



果てしない空

どこまでも続く海

国々を結ぶ 大いなる青

二つが交わる場所は きっと

何より偉大なんだろう



平穏と静寂に満たされて

全てを包み込む 青

優しいゆりかご

命をはぐくむ・・・



あぁ そうか

やっと気付いた



僕は 帰りたかったんだ



自分の原点に






















Pure winD  
                 飛龍



風が吹き抜ける

未だ残る思いをのせて



海を渡り いつか

君のところに届くだろうか?



果てしなく続く空の向こう

水平線の彼方へと



逢いたい 逢えない 哀しい

だから せめて

この想いだけでも君に



いつか届く事を祈って

風に溶かして・・・



風が吹き抜ける

未だ残る思いをのせて



君が 幸せであることを祈って










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西 瓜
             榎本  初



一晩の布団の中に忘れた昨日の

光ほそく心とおく おもく 垂れた雲

白南風 窓硝子へ朝顔が



濡れた太陽



朝顔が接吻



太陽を掴まえて

かぶりつく



飛沫が揚がる 夏











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 熱 帯 夜
               nao




昨晩まで心地よい眠りを提供してくれていた夜が

その”つけ”を請求しにきた



やれやれ

腰をあげる決心をするのに

タバコ一本分の時間を灰にしてから

冷たいシャワーをあびる



水滴が体をうち、騒がしくはねあがれば

僅かに残っていた眠気は排水溝へと逃げ込んだ




頭と体とがすっきりしたら

今度はぼんやりと灯る蝋燭のような

熱を内に感じることになった



氷水を飲み干す

ベットに散らかっていた本を片付ける

明日のスケジュールを確認する

トイレにいく それでも釈然としない

この熱はなんなのか



まわりの事柄が整然とすればするほど

その熱は存在を増しているように感じられた

それはつかまえて手にとりこねくり回す

というようなことはできないが

暗闇のなかでもその息づかいをはっきりと感じることのできる

といった種類の存在感をもっていた



しばらく考えた末

机にすわりパソコンの電源を入れた

カチッ、、、ピポン、、、

ビィービッ、、、ジーー、ガーーー、、、、



カタカタカタカタカタ、、、




行き先をみつけた熱から解放されると同時に

どっ、と眠気が僕に覆い被さってきた







































          リ・フレッシュ
                       yk




           めずらしく洗車をして

              水しぶきの虹を見た
 


              < 洗うことは 洗われること >



              ついでに花や木にも水をやった



              < 与えることは 与えられること >



              乾いていた庭が潤って

              心にも新しい風が流れた



 




     Refresh
                       yk                                      



     Washing my car after a long while

     I saw a rainbow in the spray


     < to wash is to be washed >


     I gave water to trees and flowers while I am at it


     < to give is to be given >


     The dry garden became wet, and
 
     New wind flowed into my mind too

 


    英訳
     横川秀夫氏
 
   











夏 模 様                         
                七呼




<空>


どうしても見てくれって言っているみたい

誰にも負けない輝きを放っているから

その青が受け入れるのはそれ以上の輝き

ぎらぎらとふわふわのふたつ

何処にでも刺さっていきそうな程の勢い

何にでも変われそうな程のやわらかさ

どうしても見てくれって言っている

誰にも負けない輝きが作り上げられている

季節、夏

その空は遠く

でも迫り来るほどに輝いている





<陽>


落ちてきたら

その太陽を凍らせろ

そして削ってしまえばいい

夏など要らない

かき氷にして食べてしまえ

うすいゆうぐれ色

ガラスの器が染まった





<葉>


夏の葉のようにあなたは居なさい

きらきらと目を奪う色

太陽を独り占めしている色

緑色だけど

春でも秋でも冬でも緑色はある

違うんだよそんな色ではない

太陽が居るんだその色には

葉の一片一片に

太陽が棲みついてしまっているんだよ

あなたはそう在りなさい

受け入れてそれを自分の輝きへと

変えてしまいなさい

夏の葉のように

きらきらときらきらと





<命>


この世は夏という

鮮やかさの中にあった

あなたが去り、同時に私が訪れた

夏など要らないと

窓の外の鮮やかさを壊したくなる

見つめるろうそくの火は

いつでも揺れすぎるから嫌いだ





<母>


ベランダから母の声

まだ枯れないね、と

見れば数ヶ月前に貰った鉢

未だに咲き続ける赤紫色の花

だってここには太陽があるから。

ベランダから母の声

何か言った?と

太陽に晒された腕

じんわりと汗を滲ませて

ベランダには母が居る

花はまだ枯れないだろう





<風>


聞こえている

鈍く響く重い音

風が運ぶ花火の音

そして風がゆっくりと

僅かにずれるその音と

消えゆく花火を乗せてゆく

そして静かにゆっくりと

闇の色に溶けてゆく

スローモーションで

映し出されているように

名残惜しい思いを汲むように

風はゆっくり流れていた

浴衣の裾も靡いていた

密かな想いを秘めながら

消えゆく花火を目で追うように





<朝>


そよそよと扇風機の風

明け方、強から弱へと

少し縮こまり、タオルケットに包まる

寝過ごすほどの心地よさ

陽が高くなる頃

慌てるように一斉に鳴き出す

蝉もきっと寝過ごしたのだろう

少しづつ夏も居眠りを始める

空には欠伸が混じっているように

ぼんやりとしている青

浮かぶ雲は

空の枕やタオルケット

ちょっと羨ましい

使い古したタオルケットに包まって

また朝に縮こまる

何時の間にか扇風機は止まっていた










































月 の 村
                  
 仲程




凸凹配位座はいつでも漂っていて

なにかの拍子に

繋ぎ合っている手のひらの合間にもある

ついさっきまで当たり前のことが

風ひとつ吹いただけで

何ひとつ理解できなかったり

その道理に畏れたり

わかっているふりをしながら

何ひとつわかってはいないのだろうけど

当たり前のように




田植えのすっかり終わった頃

いくつもの大きな鯉のぼりが風に吹かれ

子供の日を学校やテレビで教わった子は

指をさして不思議がる

月の暦では今からなんだ

五月晴れなんてのは今からなんだ

もしかしたら

細胞のひとつひとつに繋がっているかもしれないというのに

凸凹配位座がどこかですり抜けたんじゃないか



それでも




スクは

陰暦の六月朔前後に浜に打ち寄せられる

まだ一度も藻を食んだことのない稚魚でなければ

お腹の色が黒ずんでしまっては

いいスクガラスができない

日頃公務員をしている男でさえも

何日も前から目の細かいスク網作りをしながら

朔を待つ

銀色に輝くスクが美しいのは

まだ一度も藻を食んだことがないためだろうか

律儀にも月の朔に打ち寄せられるからなのか

とにかく光る波打ち際で

男達は嬉々とする




あじずしが浜町出店に並ぶ頃

親っ様の漬けた馴れずしがふるまわれ

キリコの灯が浜町をねり歩く頃

虫送りの火が畦道をねり歩く

やがて日が沈む頃

月が出るのを待っている

廃線脇で

次の電車と月が出るの待っている

虫の声と踏切りの音は

いつまでも

凸凹配位座で鳴り続けている




まだ当たり前のように

季節には穀物が実り、スクが浜に、人に感情が

まだ当たり前のように

月は空に



そんなにありふれてもらっても困るのだけれど




目を閉じた世界では

凸凹配位座はいつまでも漂っていて

地球のちぎれた固まりでしかない月との合間にも

繋ぎ合った手のひらの合間にもある

そしてまだ当たり前のように

僕らの細胞のひとつひとつにすべりこんだりもする















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線香花火とポテトチップス
                         MAW




この玉が落ちたらキスをしよう




そう思って線香花火を君としていた

小さな火花に照らされた君の横顔は

いつもより儚げに見えた

今キスをしたら壊れてしまうかのように




12秒後 線香花火の玉は落ちて

静寂の中 君と見つめ合うことになった




裾を払って立ち上がると

僕は自転車のカゴにあるポテトチップスを君に勧めた











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夏 の 宵
                  
夜行星






木立を揺らすほどの

せみ時雨の暑いシャワーが止むと

泣いたようにやけただれた

縁側に水が打たれる

心地よいゆるみが縁側のまどろみを揺らし

風鈴に音色が戻る



日暮れを待って

君は

汗ばんだ髪にも水を打ち直す

風に梳かれる毛先に

おどるいくつかのしずく

昼間のまばゆさを

ふっときらめかせ

櫛間にとけていく

遅れ毛の余韻



思い出したように 

遠くでお囃子が聞こえる

縁側で

忘れもののように

黙り込んでいる背中



そっと

浴衣の袖越しに

こぼれてきたもの

艶の香る指先から

淡い吐息ごと

揺れて落ちる



線香花火の

夏の宵












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ペルセウス座流星群の思い出
                                            
                               yk




ひんやりとした地面の冷たさと堅さが心地よく

地球の心とでもいうべきものが

静かに背中から伝わってくるような気がしたのをおぼえている
 

我が家の庭にビニ−ルシ−トを敷いて

一家4人

仰向けになってペルセウス座流星群を眺めていた3年前の夏・・・
 
夜空は深く澄み渡り

天の川も遙か遠く 夢のように流れていた

あたりはしんと静まりかえっていて

聞こえない音まで聞こえてきそうな夜更けだった
 

天頂付近から 四方八方に

つぎからつぎへと 音もなく 星は流れた


 
流れ行く星をかわるがわる指さしながら

私たちは歓声をあげてはしゃぎあった

たぶんそのとき4人は同じような顔で笑っていたことだろう


 
年老いた母が亡くなった翌年の夏

お盆の迎え火を焚いて 花火をした後のことだった

私たちは あのとき

少し寂しくもあり 気楽でもあった
 

あれから3年

その後もたくさんの星が流れ

時も流れた
 

今年もまたお盆がやってくる

そしてペルセウス座流星群も


 
ごくあたりまえのことなのだが

地球も広大な宇宙を 寂寥のうちに航行していて

「 公転 」と名付けられた全く同じ軌道を

寸分の狂いもなく律儀に回り続けているということを

いま あらためて思い直したりもする


 
スイフト・タットル彗星の残滓のゾ−ンに

全人類及び全生物共々

地球がまた確実に近づきつつあることを

各天文サイトも告げている
 

今年もまた

様々な人々が様々な思いを抱きながら

あの流星群をみつめるのだろう
 

同じ この地球上で
 





















 夏の終わり
                好花



ゆうわり揺らいだ夏の袖 

水音が頸をかたむけたしろい鳥になる...

細いせせらぎにサンダルを浸すと

きっとアイスクリームが欲しくなるんだ

埃っぽい日向道を焼けた足で歩けば

星がみえる頃にはのこった熱で

夏はとろけてしまうんだね







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河 原
                真美衣
 



青々した堤防に陽炎が立ち

熱い風に飽きた頃

赤いとんぼが乱れ飛んで

過ぎゆく夏の夢を運ぶ

高校生のカップルが丈高い草影に見え隠れ

笑いをこぼす傍らを

子供達が走ってゆく
 


自転車をこいでゆっくり家路に向かう人、

自慢の犬たちを連れて挨拶を交わす家族連れ

川面は蒼く深く、

住む人の誇りにふさわしく

日々の平和を映して

ゆったりゆったり、流れていく
 


一人一人の人生が鮮やかに照り映える

夕暮れ時、

そして河口に沈む大きな夕日の後は

満天に輝く星

銀河がくっきりと空を流れ

星座が言葉を交わす



やがて

夏祭りの花火が

夜空に散ると

さやかに秋がやってくる・・・























2002年8月22日・夕映えの中で

                                  yk



絹雲は高く

高く 空にかかり

ほぐれた 絹糸 のように

天の気流に たなびいている



過冷却の 風に漂う

氷晶の華



その気品を 讃えているのは

夏の 終わりの

残照



稔りを急ぐ 稲穂の 絨毯は

まだまだ 青く

夕暮れの煙が 白く 低く

その上を這う



遙か 対流圏の果てから降りてくる 冷涼な気が

地上の魂を

ただ ひたすらに

なだめ続けているのだ と思う



自然は時に 手品のように 季節をすり替える

夏の葬列を 見送るかのように

いつのまにか

ススキの穂なども 佇んでいて



やがて

蒼ざめた 影が 忍び寄り

古い記憶を 呼び覚ます

秋の夜の

芝居小屋 のような



遠ざかる





光る 田舎道や

その先に 見えていた 夢の

景色も 風物も

すべては

幻のように

急速に 遠のいて行く



遠のいて行く

















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