ひかりの花
                    榎本 初



 太陽の接吻〈くちづけ〉を何処かに落としてきてしまった。

 まわる空が包んでいたのは、まだ蕾すら結ばない、ただ煤けた

ように見せながら、ひかりに枝垂れていた櫻。中古の軽自動車を

降りた男は、雑草ばかりの堤が空へ伸びていくのを追って両腕を

突き上げていく、指の先まで。土は凩の口笛を綴じていて、乾い

ている。川は小石の体温を一粒一粒呟きつつ季節を繙いていき、

揺らめく。揺らめくのは時の揺らぎを解していくからで、真水の

息遣いが途絶えることはない。

 まだ遠い、指先で形をなぞることのできない花は、男の、薄茶

色のワイシャツの、胸のポケットの中で仄かに紅い。銀河に滲み

出ていても好い。風が静かに酔い、土の芳るのを待つふりをして

、ダンス。樹の肌へ頬を寄せて、幹の奥に、祈りの庭に見つけた

接吻。初めての輪郭に触れようとして、真水に浸していく。花は

紅を点して、咲いていく。瞼を啓いていくひかり。

 祈りの唇は、やわらかく零れていく。









site





 
平和な風景
                野田祥史




やわらかい三月の日射しに

照り映える高い島の尾根

その明るい緑に

色を添える鴎の白




今日冷めた私の眼に

ただ往復をくり返す波の

何たる短調さ

息づかいもなく




私の軟弱な想像力を

あざ笑う寒さと

一面の平和な風景




心の底では

絶世の美女が嘲笑とともに破る

私の詩を











site







 
精霊の歌
               野田祥史




春分の日、晴れわたり

暖かな陽光を照り返し

笑う乙女

街路樹の葉よ




驕りのない

慈愛に満ちた

美しき不在の乙女

精霊よ




男の腕にひっかかった

笑う娼婦の愛に似た

幸せをあざ笑い




我は歌う

愛の歌

精霊の歌を















site












 まどろみ
                 たもつ





数学の先生はカツカツと

黒板に数式を書きつづけている

それは秒針に似たリズムで

なぜ私だけがここにいないのだろう




開け放たれた窓から四月の風が吹いて

その花言葉もたどることができずに




午後の教室

見上げた空につける名前を考えながら

私の暗算は

もう地球を一周してしまった










site













夕暮れの町に僕らはいた
                           
たもつ




夕焼けがあまりに穏やか過ぎて

僕らは帰るべき時間だということを

忘れてしまったみたい




秋の匂いがするこの季節の風は

前日より冷気を含んでいるから

ティッシュもハンカチもない僕は

いつも垂れてくる鼻水をズーっと吸って




この町はすっかり生活圏外で

偶然二十年振りに立ち寄ってみれば

おおむね町並みも変わらず

夕暮れに吹くこの風は

微かにあの頃の匂いがしました




この夕暮れの町で

僕らは何をして遊んだのだろう

ベンチが壊れた公園

角っこの駄菓子屋

点在する田んぼや畑

走りまわった当時の影を追うのですが

網膜はとららえきれなくて




友人宅の表札はそのままでした

かちゃかちゃと食器の音が聞こえます

声はかけないで行きますね

夕げの邪魔はしたくないし

何より

どんな顔で何を話したらいいか

わからないもの








site


 太陽の記憶
              
野田祥史




とろけ落ちる太陽の雫が私の疲労の

眼に落ちるとき生命の記憶の彼方から

蘇ってくる景色がある




体験ではないその景色を

私の底からのびる手が求める

愛欲のように




森深い山里の

萌える緑と

数軒の家屋




田の水面にも

映っている

とろける夕日




それらを懐深くおさめて

今日もまた平凡な

日常が流れていく














site






































 黄 昏
           






潤む西の陽は あかく

滴り




静寂とぬるい風が纏いつく




やがてくる闇に

立ち竦したまま

あの子が泣き濡れて





繋いでいたはずの指は

離れてしまっていたから




もう

戻れはしない 





夜に呑みこまれて

ただ 泣き濡れて




あの子










site






我が家の庭先の「春」レポートから・・・(2003.3.23)



毎度おなじみのオオイヌノフグリ・・・
それにしても、
なんで、こんな名前なんでしょうね?


なにやら、ごしゃごしゃと、芽を出してきていますね。。


こんなものまで。。枯葉との対比がおもしろい。
ギザギザだけに、一層生命力を感じますよね?


ヨモギの芽です。当地では「モチグサ」といい、
ゆでてすり鉢ですって餅に練り込みます。
きな粉をまぶしたりして食べます。春の情趣です。


水仙の芽・・なかば野生化してます。(苦笑)


レンギョウの芽・・・・なんともかわいいですね。。
まもなく、黄色い可憐な花をいっぱい咲かせます。

こんなふうに。。 ↓


「白菜」からの転身を図る白菜。
そして・・・↓
↓ ついに、こうなっちゃいました!(笑)これ、ほんとに白菜なんですよ!(笑)
それにしても、変われば変わるものですよね?
今回は、ほんとに、植物も変身するんだということがわかりました。

またまた、・・キャッツアイ(笑)・・今度はハチに注目。懸命に仕事中です。一見楽しそうですが、ハチもそれなりに大変なんでしょうね?


どこにいるか、わかりますか?


梅です。ついに梅が咲きました!桜ももうすぐ、早いのはもう一部咲いてます。


すみれ・・たんぽぽも咲きました。
当地の春は、いろいろな花がほとんど一斉に咲きそろいます。


たんぽぽ一家(笑)
こんな「一家」だけなら世界は、まあさぞかし平和でしょうね?(笑)








目次に戻る