空 と 心
                         



 久しぶりに裏山のてっぺんに登った

 ふと軽いいたずら心が動いて

 首を下げてさかさまに景色を見た



 突然 青空が海になり

 純白の雲が流氷のように目の中を流れた



 <上下逆転の世界>



 もともと宇宙には 上も下もない

 重力の働く向きを上下と言っているに過ぎず

 ひとえに上下は重力場に依拠している

  だから重力がなければ上下もなくなって宙に浮くのだ



 そんなことを思いながら

 今度は頭を上げて空を見上げた



 その巨大な立体スクリ−ンを眺めているうちに

 いつしかそこに古い思い出が映し出されてきて

 心は しばし 時をさかのぼった



  かつて

 アドバル−ンを上げるバイトをしていたことがある

 アドバル−ンの浮力は相当強く

 重力が上方に働いているような感じを受けた

 足を踏ん張って 空に向かってアドバル−ンを少しずつ上げながら

 まるで巨大な井戸に重いつるべを落としているような錯覚にとらえられた

 それはやはり<上下逆転>の奇妙な感覚だった



 映画館の屋上での仕事だった

 風のない天気のいい日は

 その場を離れても良いことになっていて

 ちゃっかりとただで映画を見ていたりしたものだ

 思えば気楽で割のいいバイトだった・・・



 考えてみたらこの空もこの心も

 その時とまったく変わっていないなと

 妙なことに気がついて

 さらにまた

 空と心は よく似ているなと思った