カブトムシ
         
                   
真美衣



早朝の椚の林に

忍者のように声をひそめ、

いつもはにぎやかな私の子供が

にわかに狩人になる

その頭をぽんぽんたたいて先をゆくのは彼の父親

手練れのカブトムシ捕りだった頃の自慢話しをしながら

故郷の裏山を歩く一人の少年に逆もどり

息子と同じ目をして

清澄な朝靄のなかをきびきびと動き回る



いつの間にかおとなになって

新しい命のサイクルを生きている私達

時が経って

裏山の森は遠ざかっても

人はそんなにかわらないんだね

緑に囲まれた夏休み、

光る眼(まなこ)の童子にかえり

下草をふみくだいて天然と溶け合う



わさわさっと椚を揺すると

ぼとぼと墜ちる虫たち

歓声とともに新しい夏の日がはじまる








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